啓太くんのお料理教室 |
〜17. わっぱ風冷ごはん料理 |
講師・滝俊介 |
料理を教えてもらうために啓太が約束の時間に来てみると、鍋やらザルやらに埋もれながら、何やら俊介が奮闘中。どうやらサイズを合わせているらしく、鍋にザルをはめては気に入らないのか別の鍋で同じことを繰り返している。 啓太「おい、俊介。何やってんだ?」 俊介「お、来たか。ちょうどええ。啓太も手伝えや」 啓太「手伝うのはいいけど、何してるのか分からないと手伝えないよ」 俊介「何や〜。見て分からんのんかいな。使えんやっちゃなあ、啓太も」 啓太「悪かったな(苦笑)。 俊介「まあええ。あんな、手軽にできるご飯料理が知りたいて言うてたやろ?」 啓太「うん。中嶋さんとこって、家事は当番制なんだよ。俺、料理のレパートリーなんてないからさ」 俊介「へえ? あの副会長が雑巾がけすることとかあるんか」 啓太「エアコンの室内機の上まで拭いてるよ」 俊介「へええ〜。まあ想像しよ思たらできんこともないけど……」 啓太「手を抜いてる中嶋さんの方がよほど偽者だよ(苦笑)」 俊介「まあ想像するだに恐ろしい雑巾がけはおいといて、や」 啓太「そうそう。料理だよ」 俊介「そんな啓太に下ごしらえがどうとかってややこしい料理を言うても無理やろ? せやから前日に 残った冷やご飯をな、一品料理に変身させよとしよる訳や」 啓太「それってチャーハンみたいなの?」 俊介「チャーハンはまた今度な。今日は言うたやろ? 一品料理や」 啓太「どこが違うのかよくわかんないけど、よろしくな」 俊介「おう! まかしとき!」 ・ ・ ・ ・ ・ 啓太「はい。ということで啓太くんのお料理教室です。今日は俊介に冷やご飯を使った料理を習います」 俊介「最初に用意するのはワカメご飯用のワカメ。なかったらお〇すび山でええ。この場合は種類は お好みでな。それもなかったら、いっそナシでもオッケーや(笑)。あとはシャケの切り身。火が通り にくいからあんまり分厚いのはいらん。スーパーで売っとう弁当なんかに、薄っぺら〜い鮭の焼い たんが入っとうやろ? あのくらいでええねん。せやけど脂がのっとう方が美味しいからなあ」 啓太「今日は刺身用のアトランティックサーモンが来てるよ?」 俊介「それそれ。理想的や。ひとり2〜3切れあったら十分やから、刺身の残ったんでもええで。どうせ 火ぃ通すしな。適当な鮭がなかったら別にフレークでもかまへん。逆にハラスみたいに脂のりのり の場合は、ワカメのない方がシャケの味が引き立つわな」 啓太「一口に鮭の切り身って言っても、なかなか奥が深いんだね」 俊介「素材がええもんの時には、料理はシンプルな方がええんと同じこっちゃ。最高級の神戸牛やら 伊勢海老やらが、塩とコショウだけでグリルするんがいちばん美味しいのと同じやで」 啓太「なるほど。よくわかったよ。あとは三つ葉と……。これはお酒?」 俊介「日本酒や。ほんのちょっと使うだけやから、料理用でも特級酒でも、家にあるもんでええ」 啓太「お酒は日本酒だったら何でもオッケー、と。一品めの材料ってこれでおしまい?」 俊介「食材はな。せやけどいちばん大事なモン忘れとるで」 啓太「いちばん大事な……って。シャケだろ、ワカメだろ……」 俊介「ちゃうて。食材は終わりでええねん」 啓太「食材じゃないのにいちばん大事なもの?」 俊介「せや。そこにあるやろ」 啓太「大事な……って、これ、お鍋とザルだよ」 俊介「そうや。今日はそれがポイントなんや ( ̄ー ̄)」 啓太「なんか……。すごい自慢そうだね(苦笑)」 俊介「せや(笑)」 啓太「でもこれのどこが自慢なんだ?」 俊介「うん。冷やごはんいうたら冷たい訳やろ?」 啓太「まあね。『冷や』っていうくらいなんだから」 俊介「それを美味しいに食べよと思たら、たとえ夏でもやっぱ温めなあかんやん」 啓太「うん」 俊介「かと言うて電子レンジでチンはあかん。あれは論外や」 啓太「そう?」 俊介「そうや。ホンマはな、中華のセイロてあるやろ? 飲茶とかでエビ餃子とか小籠包とか蒸してその まま出てくるやつ」 啓太「中華街で売ってる直径が20センチあるかないかみたいな小さいやつ?」 俊介「そう。それそれ。あれが理想的やねん。余分な湯気を竹が吸い込んでくれよるからな。食材に いらん水分がつきよらんねん。そのままひとり分ずつ食卓に出すことかってできるし、重ねていく つも蒸せるしな」 啓太「へえ〜」 俊介「せやけど一般のご家庭でそんなんある家も少ないやろし。大きな蒸し器いうたって、ちょっと冷や ごはん蒸すだけに出すんはめんどくさいやん?」 啓太「まあね。うちにはあるけど(笑)」 俊介「せやからこないして鍋に水入れてザルをはめたら……。ほら。お手軽蒸し器の出来上がりや!」 啓太「あっ、ホントだ。俊介すごいよ〜!」 俊介「へへへへへ ( ̄ー ̄)。まあ、鍋とザルの直径を合わすことと、ザルの底と鍋の底とが適当に開い とるようにな。水の時は大丈夫でも沸騰してきたらザルの底につきよるねん。そしたらごはんが 濡れてまう」 啓太「それでさっき鍋にザルを重ねてたのか」 俊介「そういうこっちゃ(笑)」 ・ ・ ・ ・ ・ 俊介「ほな作っていこか」 啓太「うん」 俊介「冷やごはんにワカメを混ぜるねんけどな、もし固まってしもとったら、ちょっとだけ日本酒をたらし てほぐすねん。ようけはいらん」 啓太「ワカメはどのくらい?」 俊介「お好みでええねんけど、見た目で少ないかな〜ってくらいにしとく方がええな」 啓太「そうなんだ?」 俊介「蒸したらワカメが広がるやないか。見た目でちょうどくらいにしとったら、出来上がったらワカメだら けになっとうで(笑)。お米から炊くんちゃうんやし」 啓太「そういやそうだな(汗)。んじゃこのくらいにしとこう」 俊介「うん。そいでええで。今日はおむすびと違ておかずもあるわけやしな」 啓太「うん」 俊介「混ぜられたら、セイロの場合はひとり分ずつ。ザルなり蒸し器なりを作う場合は全部入れて、いち ばん上に鮭を置いて、強火で蒸す。鮭に火が通ったら出来上がりや」 ・ ・ ・ ・ ・ 俊介「蒸し上がりを待っとう間に、もう一品な」 啓太「えーっと、こっちの材料は……。あれ? これチキンか?」 俊介「ちょっとだけな」 啓太「珍しいな。お料理教室は肉を使わないのがウリだったのに」 俊介「薄あげにするつもりやってんけどな、ちょい弱いかなあ思て」 啓太「ってことは薄あげでもオッケーってこと?」 俊介「メタボが気になるお父さんには薄あげで作ったり(笑)」 啓太「うん(笑)。じゃあこっちの作り方は?」 俊介「チキンは小さく切る。指の関節ひとつ分くらいにしといたら、火の通りもええな」 啓太「そうだね。……切った」 俊介「ほなごはんに下味つけよか。さっきは日本酒だけやったからそのままでよかってんけど、今度は ちょっとだけ醤油を入れる。淡口醤油でも濃い口でも、どっちでもかまへん」 啓太「今日は濃い口がきてるみたいだよ?」 俊介「そしたらそれをちょっと器に入れて、日本酒で割る。できあがりのイメージが『炊き込みごはん』 やから、そのくらいの色になるようにな」 啓太「えー? それってこれくらい?」 俊介「う〜ん。ちょっと微妙かもな。せやけど塩からいのはあかんで。みずくさいのはええけど」 啓太「……お酒たします(笑)」 俊介「日本酒かって結構からかったりするもんな。……よし。それくらいでいこか。さっきみたいにそれで ごはんほぐすねん」 啓太「2度目だからさっきよりは美味く出来てる気がする(笑)」 俊介「できたらチキン混ぜて終わりや。さっきと同じ。蒸してチキンに火が通ったら終わりや」 啓太「どっちも簡単なんだね」 ・ ・ ・ ・ ・ 俊介「チキンがようけ残ったから、オマケの1品や」 啓太「うんうん」 俊介「チキンな。これはモモ肉やけど、胸肉でもどこでもええ」 啓太「これみたいに大きい1枚のがいいのか?」 俊介「蒸し器によるな。大きいままで入るんなら1枚もの。ひとり分ずつのセイロやったら一口大に切る」 啓太「今日はこのままだな」 俊介「そやな。ほな、それを蒸す。油が落ちるから、重ねて蒸すときはいちばん下の段にしてや」 啓太「それから?」 俊介「終わりや」 啓太「え゛っ!」 俊介「ほんまについでや。もう1品いくぞ!」 啓太「行けちゃうよなー。こんなに簡単なら(笑)」 俊介「行けてまうでー(笑)。これはセイロが向いてるねんけど、下にレタスを敷く。冬場は白菜な」 啓太「こんな感じ?」 俊介「適当に蒸気の通るトコは開けといたりや? ぎっしりやなくて、こんもりふわっと、って感じやな」 啓太「ファジーだな(笑)」 俊介「その上に豚肉の薄切りを広げる。枚数は適当。以上終わり」 啓太「終っちゃったよ(笑)」 ・ ・ ・ ・ ・ 啓太「はい。次々蒸しあがってます。まずはごはんの方から」 俊介「ザルや蒸し器を使ったときはここで混ぜる。セイロを使ったんなら食べる人が混ぜるから、そのま ま出したらええ。鮭のごはんは上に三つ葉の刻んだの。チキンの入った炊き込みごはん風のは 海苔の刻んだのを乗せたらできあがりや。」 啓太「おいしそうだな。どっちから食べるか迷うよ(笑)」 俊介「チキン丸ごと蒸しは、出来上がったら一口大にそぎ切り。辛子醤油が合うと思う。上に白髪ネギと 針しょうがをのせたら立派な1品やろ?」 啓太「本当だ」 俊介「レタス豚はレモン醤油がええかな。まあお好みで」 啓太「なんか、簡単な割には見栄えのいい料理だな」 俊介「せやろ? 小さいセイロを使うたらそのまま食卓に出せるしな。味もええで。まあおあがり」 啓太「じゃあいっただっきまーす♪」 ・ ・ ・ ・ ・ 啓太「……(もぐもぐ)……(もぐもぐ)……」 俊介「どや?」 啓太「……(もぐもぐ)……(もぐもぐ)……」 俊介「どやねん、て」 啓太「……(もぐもぐ)……(もぐもぐ)……」 俊介「けーたあ」 啓太「……(もぐもぐ。ごっくん)。はぁ〜。ごちそうさま」 俊介「って、感想も言わずにいきなり完食かい(苦笑)」 啓太「まあまあ、それが感想だ、っていうことでさ(笑)」 俊介「確かに、うわべだけ美味しいって言われるよりかはええけどな」 啓太「そうそう(笑)」 俊介「ほなまあ家に帰ったら作ったり。それでのうてもラブラブやろけど、美味しいごはんを作ってもろた ら、ラブ度も一気に上がるでえ!」 啓太「あ……。だめだめ。それはない」 俊介「なんでや? 一気にトーンダウンしたやないか」 啓太「だって今日作ったの、みんな中嶋さんのレパートリーなんだもの。言ったろ? 『中華街で売ってる セイロだったら家にある』って」 俊介「なんや。『うち』っちゅーのは副会長の家のことかい(汗)」 啓太「冷ごはんが残ったら時々作ってくれるよ(幸笑)」 俊介「料理までやってのけるとは……。副会長侮りがたし……(脂汗)」 |
いずみんから一言。 |
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