![]() |
竜の名は…… |
![]() |
(鈴菱和希プライベート新年飲み会) 和希「…………はぁあ……(タメイキ)……」 成瀬「和希、今日のデザートのクレ……、って。どうしたの!? すごいため息ついたりして」 和希「あれですよ、あれ。……はぁ……」 成瀬「あれって……。西園寺たちのことかい?」 和希「何だってうちの新年会って、こうあの人たちのため息ではじまるんです?」 成瀬「例年だと啓太と中嶋さんの年賀状がらみだけどね」 和希「だけど今年はアヤしくもアブなくもなかったじゃないですか!」 成瀬「だよねぇ。今年の着ぐるみは最高の出来だったし」 和希「でしょう? 今年は中嶋も協力してくれたし、啓太の可愛さだけが目立つ年賀状だ ったのに……」 海野「だったら僕が聞いてこようか〜?」 和希「うわっ!」 成瀬「う、海野先生?」 和希「あちらにお話に行かれたのでは?」 海野「うーん。何かみんな深刻そうにしてたから邪魔しちゃ悪いかな〜って。だけど年賀 状のことなら僕がまざっても大丈夫だよね」 成瀬「どうする、和希。お願いしちゃう?」 和希「そうですね……。俺たちはもうちょっと準備がありますし」 成瀬「すみません。じゃあよろしくお願いします」 和希「こっそりというか、無理のない程度で結構ですから。ね」 海野「おっけ〜」 西園寺「…………」 篠宮「…………」 七条「…………」 西園寺「……はぁ……(タメイキ)……」 篠宮「……ううむ(タメイキ)……」 七条「……はあぁ……(タメイキ)」 海野「あれー? 新年早々みんなでため息なのー?」 篠宮「あ、いや。新年の席で申し訳ありません」 西園寺「わたしたちだって『今年こそは』と思っていたんだが」 七条「だから言ったでしょう。あの人非人に何かを期待する方がおかしいんです」 海野「え〜? 話が見えないよー?」 篠宮「中嶋と伊藤からの年賀状ですよ」 海野「えーと。確か……、軍服っぽい服の中嶋くんが原っぱみたいなトコに胡座をかいて 座ってて、着ぐるみを着た伊藤くんが膝に寄りかかってる……」 西園寺「それだ」 岩井「今年は……無難だったと思うが……?」 七条「無難か否かという二択であれば、確かに無難でしょうね」 篠宮「新年早々の軍服姿というのも不穏当というのも不穏当だが、カーキ色が意外に似 合っていたので良しとすることにして……」 西園寺「問題は啓太だな」 岩井「……啓太か……」 七条「ええ。伊藤くんです」 西園寺「あんなひどい着ぐるみを着せられた啓太の姿を、新年早々に見なければならな いとは思いもしなかった」 岩井「確かに……。あの色合いはちょっと……」 篠宮「薄いブルー・グレーの本体に目が真っ赤。角が黄色、だったか」 七条「腹部が白とは手の込んだことです」 西園寺「しかも背びれのほかに、訳のわからないタテガミもどきのひらひらした毛までつ けて」 篠宮「いちばん問題なのは、何の動物か見当もつかないところにある」 岩井「俺は……、デフォルメの効いたカバだと思っていた……」 篠宮「辰年なんだから竜にしておけばいいものを、あんな架空の動物を作るからだ」 海野「う〜ん。竜も架空の動物だよ?」 七条「だったらもっと愛らしいデザインにすればいいんです。日本にはピカチ●ウというす ばらしいお手本があるというのに」 西園寺「四つ足の動物を立たせて服を着せることしかできない外国と違ってな」 海野「だけど伊藤くんの衣装はいつも遠藤くんが作ってるんだよね」 岩井「きっと……断りきれなかったんだろう……」 七条「ええ。そうですとも。伊藤くんに責任はありません」 篠宮「うむ。伊藤は着せられただけだ」 啓太「え、何? 俺?」 中嶋「うん? どうかしたか?」 篠宮「ああ、中嶋。来たんだな」 中嶋「たった今な」 七条「おや? どなたかと思ったら……。今年は珍しく時間に間に合われたんですね」 中嶋「2日ほど前に何やら不穏な空気を感じたんでな。(ぐいっと啓太を抱き寄せ)こいつ を連れてホテルに泊まっていたんだ」 丹羽「クルマがヤバイ可能性もあったからな。俺が迎えに行った、って訳さ」 和希「ま、今年は中嶋さんの作戦勝ちっていうことですね(爽笑)」 七条「……(筋肉笑)……」 啓太「和希! 今年も呼んでくれて有難うな」 成瀬「ようこそ、啓太」 啓太「成瀬さんも。有難うございます。成瀬さんの手料理、毎年楽しみにしてるんですよ」 成瀬「有難う、啓太。今日はリクエストどおり、デザートにクレープ・シュゼットを用意したか らね」 啓太「わあっ! 有難うございます!」 中嶋「おい、啓太」 啓太「はい?」 中嶋「まったり挨拶も正月だから悪いとは言わないがな。さっき何か聞きかけてたんじゃ ないのか」 啓太「あっ、そうだった! 俺がどうしたのかなって……」 海野「それそれ! 僕も聞きかけてたとこだったんだよね」 和希「啓太がどうかしたのか?」 西園寺「何をとぼけたことを。張本人が」 七条「そうですね。ご本人から創作意図をお伺いしましょうか」 啓太「張本人、ですか?……(不安)」 篠宮「安心しろ、伊藤。おまえのことじゃない」 海野「あのねー。伊藤くんが送ってきた年賀状のことらしいよ〜」 西園寺「正確には『年賀状に写っていたおまえが着ていた着ぐるみ』だ」 七条「なんですかね、あのカバのような物体は。あんなもの着せられた伊藤くんがかわい そうでなりません」 和希「何って……。ポチだろ?」 岩井「(……ポチ……?)」 成瀬「ポチだよね」 篠宮「(……裏の畑で「ここ掘れワンワン」と鳴く、あのポチか?……)」 丹羽「ポチだぜ?」 西園寺「(……ポチ袋のポチか……?)」 中嶋「ほう? ポチを知らんようだな」 七条「『ポチっとクリック』のポチなら存じ上げておりますが」 海野「あ〜。七条くんは帰国子女だから知らないのかな? ポチって言うのは日本の代 表的な犬の名前だよ」 啓太「最近はショコラとかマロンとか、食べ物系が流行ってるみたいですけどね」 丹羽「中嶋んちのボルゾイは代々マックスだよな」 中嶋「ブリーダーが血統書に『マクシミリアン・マックスウェル○世』と書いてくるから略して いるだけだ」 海野「そうなんだ? 普通は全然違う名前をつけるよ? 太郎とか花子とか」 和希「単にめんどくさがってるだけ、ってのがひしひしと伝わってくる名前だよな」 成瀬「僕としてはロシア風に『ウォッカ』とか『マラスキーノ』とかの方が好みだけどね」 丹羽「『ウォッカ』はともかく『マラスキーノ』はロシア語じゃないだろう(苦笑)」 成瀬「そうだっけ(苦笑)」 七条「あの、皆さん。犬談義で盛り上がっているところを申し訳ないのですが」 篠宮「そうだ。今はポチの話だ」 和希「はい。ポチが?」 西園寺「だからそのポチとは何だと聞いているんだ」 啓太「あ。それ、某・準国営放送のアニメのキャラなんだって」 岩井「……アニメ……」 和希「『今日●らマ王』は主人公の高校生が異世界の魔王に即位するという、涙あり笑い ありの感動の名作アニメですよ」 中嶋「主人公の名付け親がジョーク以外は完璧な爽やか系好青年でな。ちなみに、俺が 着ていたカーキ色の軍服は彼の衣装だ」 丹羽「主人公の兄貴ってのが地球の次の魔王に就任予定なんだが、一橋現役合格、都 知事を目指す埼玉県民だ!」 成瀬「そして死後も国民から慕われている真王ってのが、またいい男なんだよね〜」 和希「で、その主人公が保護した竜の子供の名前がポチってわけです」 西園寺「竜の名前がポチとは……。信じられない感性だ」 中嶋「主人公の婚約者はリースエールと名づけていたがな」 丹羽「ホントに見てないのか? 丸3年も放送してた上に、ヘビーローテーションと言って いいくらい再放送かかってるぜ?」 西園寺「知らん」 篠宮「百歩譲って有名なアニメだとしてもだ。年賀状にあんな着ぐるみとは……」 和希「いい出来だったでしょう(満足笑)」← 話がかみあってない(苦笑) 成瀬「もう何年も前から『辰年になったらポチを作るぞー』って言ってたんだよね〜」 和希「布も型紙も縫製も、準備はばっちりですよ」← どや顔(爆) 篠宮「おまえたちの思い入れはよく分かった。だが伊藤の気持ちは考えたのか?」 啓太「俺が?」 西園寺「かわいそうに」 丹羽「なんで?」 七条「伊藤くん。あんな着ぐるみを着るのはさぞ嫌だったでしょうね」 和希「喜ぶの間違いだろっ」 岩井「あとで俺の部屋に来れば……、ゆっくり愚痴を聞いてやる……」 成瀬「なんか……。さりげなくなのか露骨なのか分からない誘い方してますね(苦笑)」 丹羽「これが人徳ってやつか(苦笑)」 中嶋「人徳があったらどうだと言うんだ。かわいそうだの愚痴だの気持ちだの。勝手に決 めつけやがって」 七条「おや。そういう誰かさんの方こそ決めつけているのでは?」 中嶋「ふん。こいつなら喜んであの着ぐるみを着たぞ」 篠宮「まさか」 西園寺「啓太は優しいからな」 七条「さあ、伊藤くん。是非僕たちに君の本音を聞かせてください」 啓太「え〜。本音ですかぁ?」 篠宮「遠慮することはないぞ」 啓太「だけど……」 西園寺「啓太。今日は無礼講だ。本当のことを言ってかまわないぞ?」 啓太「そっか(おててをポン!)。無礼講なんだ!じゃあ言っちゃおうかなぁ」 岩井「……(無言で頷く)……」 啓太「よ〜し。伊藤啓太、告白しま〜す!」← ノリノリ(笑) 成瀬「……誰か、啓太のウェルカムドリンクにアルコール入れたかな(汗)」 和希「啓太が暴走すると俺が疑われるんですよ(困惑)」 丹羽「けどよ。顔は赤くねえし、酒は入ってないんじゃないか?」 和希「あの人にとっちゃ事実なんてどうだっていいんですよ。自分がどう思ったかだけで」 丹羽「確かにな(苦笑)」 和希「今度はどんな報復をされることやら……(タメイキ)……」 成瀬「ま、まあ、啓太の告白を聞いてみようよ。もしかすると中嶋さんから満点もらえるか もしれないよ?」 和希「期待はしないでおきます(寂笑)」 啓太「それでぇ、えーっと、和希には申し訳ないんだけど」 成瀬「あらら。いきなり?」 啓太「正直言って俺、着ぐるみは龍でもカバでもポチでも何でも良かったんです」 和希「……何でも?……(涙)」 啓太「だけど中嶋さんが『これ着たらどんなに甘えた写真でもかまわない』って言ってくれ たから……(幸笑)」 七条「伊藤くん、すみません。僕のヒアリングが少しおかしかったようです。今、何と?」 啓太「中嶋さんがね。えへへへへ。甘えた写真を撮っていいって言ってくれたんですぅ♪」 西園寺「嫌がらせ……、いや。挑戦だな」 啓太「俺もううれしくって」 篠宮「そ、そうか。よかったな」← ほかに言いようがない(苦笑) 啓太「しかもですよ。一緒にコスプレしてくれるって言うし、ロケ地も探してきてくれるし」 海野「あれロケだったんだ?」 啓太「シドニーから1時間くらいクルマで走ったところです」 丹羽「海外かよ」 啓太「甘えた写真は撮らせてくれるし、2泊3日とはいえ海外旅行にも連れてってもらえる し。何より、それを年賀状にできちゃうし」 西園寺「おい。誰か啓太の全身から迸っているピンクのハートを止めろ」 中嶋「無理だな。ああなったら俺にも止められない。精々、水を向けてしまった己の不明 を呪うんだな」 啓太「もう俺って本当に運がいいんだなーって感じで」 岩井「……じゃあ嫌なことは……、何もなかったんだな……」 啓太「あ。そういえば」 西園寺「あったのか?」 篠宮「やっぱりな」 七条「是非、聞かせてください」 啓太「えっとね。中嶋さんのほっぺにキスしてる写真が撮りたかったのに、口の部分がこ う……長く伸びてるから邪魔でできなかったんです」 七条「……(無表情)……」 啓太「あとね、ホントは使いたかった写真があるんですよ。ひざの上に座った俺を、中嶋 さんがうしろから抱いてくれてるやつ。だけど中嶋さんの顔が半分になっちゃってて 諦めたんですぅ(幸笑幸)。で、俺が中嶋さんの後ろから抱きついてる写真にしよう かと思ったら、それだと竜だとわからないからダメって言われちゃって……」 後日。和希のところには藁人形だの謎のコンピュータウィルスだのが大量に届けられた。 聞きたくもない中嶋との惚気話を延々2時間近くも聞かされたのは、和希がポチなんか の着ぐるみを作った所為、ということらしい。 「ポチ最高! 辰年ハッピー♪ 和希、ポチの着ぐるみ作ってくれて有難うな!」 |
![]() |
いずみんから一言。 明けましておめでとうございます。 とは言えない日にちになりましたが……。 なあに。去年よりは早かったさ! と自分を慰めております(苦笑)。 ポチネタは早くから決まっていたのに書きにくくて(汗)。 本文中に書いた通り、「今日か●マ王」のメインキャスト4人がヘヴンと ダブってたので、いつか使いたかったんです。 主人公の男子高校生に男の婚約者ができる、腐女子向けのお話です。 ポチをご覧になりたい方は、第1シーズンの「魔王vs勇者」だったか まあそんなタイトルで前後編になってるのがそれです。 この回はお兄ちゃんと真王は出てきませんが、興味がおありなら レンタルしてみてください。 ま、こんなスタートですが、本年もよろしくお願い申し上げます♪ |
作品リストへはウインドウを閉じてお戻りください。 |