うさぎは踊る。くるくると。




滝「皆さん。お集まりいただきまして有難うございます。大方お揃いのようですんで、依頼
     のおたよりを読ませてもらいます」
丹羽「おい、郁ちゃんと中嶋がまだだ」
滝「はい。遅れるいうて連絡もろてますんで」
丹羽「へえ?おまえにしちゃあ、えらくいい加減じゃねぇか。いつもは馬鹿みたいに律義
    なのによ」
和希「いいんじゃないですか? 依頼を受けた本人がいいと言ってるんですから。さっさと
    進めてくれた方が俺は有難いです」 ← 正月の挨拶回りで疲れ気味(笑)
篠宮「そう言うな。少々スタートが遅くなっても終わる時間はさほど変わらない。だったら
    きっちりはじめた方がいい」
滝「あ〜。お気づかい有難うございます(汗)。せやけど時間ちょうどにやれとか、きっちり
    みんなが集まらんと進めたらあかんとはどこにも書いてないんで」
海野「どれどれ〜。見せて見せて〜」
滝「はい」
海野「ふんふん……。あ〜、ホントだ。どこにも書いてないからいいんじゃないかなぁ」
篠宮「海野先生がそうおっしゃるのなら……。それでは進めてくれ」
滝「ほないきますよ。まずはこれを聞いたってください」
≪滝、手元のパソコンをクリック。と、音楽が流れはじめる≫
和希「何だよ、これ?」
海野「歌詞はないけど、うさぎのダンスだね〜」
岩井「ああ……。俺もそう思う……」
篠宮「うむ。うさぎのダンスだ」
和希「うさぎのダンス? って、何。それ」
啓太「知らないの(驚)」
丹羽「知らねぇのか(驚)」
滝「マジかいな(驚)」
篠宮「ほう? これを知らない人間がいるとはな。驚いた」
和希「いや。いるでしょう普通に(憮然)」
七条「普通なら知っていると思いますよ。帰国子女の僕が知っているんですから(冷笑)」
海野「というより、知らない人がいるなんて思いもしなかったよ〜」
成瀬「大丈夫だよ、僕はそんな和希が大好きだからね?」
滝「……ま、まあ。分からんお人と、それでもええお人はおいといて」
和希「おいとくんですか(憮然)」
篠宮「仕方がなかろう。こういうものは説明してどうこうできるものでもないからな」
丹羽「逆に、分からなくても何とかなるなら、説明がなくても何とかなる」
成瀬「会長の言う通りだよ。眉間にシワを寄せるのは、質問を聞いてからにすれば?」
和希「別に眉間にシワなんて寄せてませんけど」
啓太「和希ぃ。思いっきり寄ってるぞ……(汗)」
和希「寄ってない!」
岩井「遠藤……。これが……。今のお前だ……」
≪岩井の声のする方に振り向く一同。手元のスケッチブックに、思いっきり眉間にシワの  寄った和希の顔が描かれている≫
和希「………………」
成瀬「ね? 綺麗な顔なのにシワが取れなくなったら困るよ?」
和希「わかりました。わかりましたよ。降参します」
滝「(あのスケッチ、売ったらいったいナンボになるやろか……?)」
啓太「俊介? 眉間のシワは伸びてるぞ? 早く質問にいけよ」
滝「ああっと。すまんすまん」
七条「滝くんのことですから、岩井さんのお書きになったスケッチを売ったらいくらになる
    か考えてたんじゃないですか」
滝「え。何やて? そんな岩井さんの絵なんて売るはずないやん(焦)」
啓太「(思ってたな)」
成瀬「(思ってたね)」
七条「(思ってましたね)」
滝「そんなんケタが大きすぎて、俺の手にはおえへんもん」
篠宮「つまりは手に負えるなら売っていたということか(呆)」
和希「(売れるとわかっているものでも自分のキャパを超えていると分かれば手を出さな
    い。うーん。意外に堅実だな。営業には向かないけど財務あたりにはいいかもな。
    いずれ鈴菱に引っ張ることも視野に入れておくか……)」
丹羽「ハッハッハ。サルでも売れねえモンがあったか。だったらちまっと食券分だけ仕事し
    とけ」
滝「(自分らが横からごちゃごちゃ言いよったくせに……。怒) ええですか? ほな依頼文
   読ましてもらいます」

依頼文 『この歌の最初の部分は何と歌いますか』

成瀬「最初の部分……って。うさぎのダンスだろう? だったら『♪たらったらったらったうさ
    ぎのダンス〜♪』じゃないの?」
和希「へぇ〜。そんな歌詞なんだ」
啓太「むちゃくちゃ有名だよ? ホントに聞いたことない?」
和希「ない(きっぱり)」
滝「いや。そないきっぱり言うことでも……(汗)」
成瀬「和希……(苦笑)」
篠宮「待て。それは違うだろう。間違っているから聞いたことがないんじゃないか」
丹羽「俺もそう思う。篠宮に1票」
海野「え〜?違うの?どんなどんな?」
篠宮「『♪ソソラソラソラうさぎのダンス♪』だろう」
丹羽「『♪お耳ふりふりかわいいダンス♪』だろ?」
啓太「……3つとも違う……」 ← ちょっとボーゼン
和希「で? どれが本当のうさぎのダンスなんだ?(冷)」
啓太「えーっと……(汗)」
成瀬「なんだか質問の意図が見えてきた気がするね」
滝「どんなん?」
篠宮「つまり、依頼者も迷ったのだろう」
成瀬「そういうこと」
和希「それならネットか何かで調べればすむことでしょう。わざわざみんなを集めて聞くほ
    どのこともない」
丹羽「確かにな」
海野「だったらこれを聞いてきた人、調べたのに結果が気に入らなかったのかもしれない
    ね」
和希「……(ぼそっと) なんだ。単に同意が欲しかっただけかよ」
成瀬「まぁまぁ。そういう時だってあるよ(苦笑)」
丹羽「まあな(苦笑)」
篠宮「では多数決を採ろう。手っ取り早く総意がわかる」
啓太「賛成」
成瀬「僕も」
滝「じゃあ。『たらったらったらった』って歌ってると思う人」
海野「はーい、僕」
成瀬「さっきそれで歌ったからね。もちろん僕も」
啓太「俺も。これしか知らないし」
七条「では僕もこれにしておきましょうか。愛する伊藤くんがこれだと言うのなら、僕にとっ
    ての正解はこれなんですから(爽笑)」
和希「ということはつまり」
丹羽「俺と篠宮以外はみんな 『♪たらりたらりら♪』かよ」
啓太「お、王様? 『たらりたらりら』じゃなくて、『たらったらったらった』です(汗)」
丹羽「んな細かいことは気にするな」
篠宮「いや。細部にこだわった質問だからそれはいいんだが……。それにしても『ソソラソ
    ラソラ』が俺しかいなかったのは意外だった」
和希「もちろんたったこれだけのサンプルでは正確とは言いがたいのですが。でも傾向し
    ての分析には十分……」 ← 疲れてるから早く帰りたくてしょうがない(笑)
丹羽「ちょっと待て。結論を出すには早い。岩井がまだ意見を言ってない」
海野「そう言えばそうだったね〜。岩井くんは何て歌うと思う?」
岩井「じつはさっきから考えているんだが……」
丹羽「で?」
篠宮「急かすな、丹羽」
丹羽「だってよぉ。岩井の返答如何によっては情勢が変わるじゃねぇか」
啓太「変わるって言っても最大で4:2なんじゃ……?」
滝「いや。それはちゃうで。『たらったらったらった』かそれ以外、っていうくくりで言えば
   4:3や。ひっくり返せんまでも拮抗はしてくる」
丹羽「そういうこと」
和希「(この数字の読み方。伊達に胴元はやってないな。やっぱり財務に欲しい)」
篠宮「外野は気にするな。ゆっくり考えていいぞ、卓人」
岩井「いや、それが……わからなくなってしまって……」
成瀬「わからない……って」
岩井「どれもが正解のように思えるし、どれも違うようにも思える……」
海野「こういうのは考えちゃったら駄目なんだよね〜。時間をおかなかったらぱっと答えら
    れるんだけど」
和希「俺としては第4のダンスが出てくれば面白いと……。あれ?誰か来たかな」

(西園寺「滝の依頼はここか?」)
(中嶋「そのはずだが」)
≪軽いノックとともにドアが開き、西園寺と中嶋が入ってくる≫

丹羽「おっ、ヒデじゃないか」
七条「郁も。もう来年度の概算見積りは終りましたか?」
西園寺「ああ。工事費のあたりに多少の不安がないでもないが、とりあえずはこれで予算
    の要求はできそうだ」
七条「それは良かった。なにしろ相手は鈴菱本社ですからね。古狸の巣窟に入るにはそ
    れなりの装備が必要です」
和希「でもちょっと珍しいんじゃないですか?西園寺さんと中嶋さんが作った予算案に、
    不安要素が残ってるなんて」 ← 君らの不備で矢面に立たされるのは嫌だと言い
                          たげな表情(笑)。
中嶋「まあ、それほどの心配は必要ないんじゃないか。たとえ役員連中から細かいところ
    をつつかれそうになったとしても、きっと理事長が助け舟を出してくれるに違いない
    だろうからな」 ←その程度でぐずぐず言うなと、小馬鹿にしたように笑う(笑)。
丹羽「ヒデも郁ちゃんも遠藤も。出来上がっちまった予算案のことなんかどうでもいいから
    ちょっと多数決に加われ。俺と篠宮がほとんど孤立してんだ」
篠宮「うむ。来年度の予算は確かに大切だが、ここで我々が話をしてどうなるものでもな
    いからな。孤立云々よりここでの議論に戻るのが筋だろう」
西園寺「もちろんだ。そのために足を運んできたのだからな」
滝「ほなちょっと最初に戻らしてもろて」
≪もう一度音楽を流す滝。簡潔にまとめた経緯を和希が説明する≫
啓太「(和希ってすごいなあ。あんなに上手に説明するなんて。やっぱ一流の経営者って
    事態の把握の仕方が違うんだなあ)」← しきりに感心している。
成瀬「(よほど早く帰りたいんだね・苦笑)」← でもたぶんこっちが正解(爆)。
丹羽「で? おまえらはどれだ?」
西園寺「どれもこれもないだろう 『♪ソソレソレソレ♪』と決まっている」
中嶋「ああ。西園寺の言う通りだ。ちょっとコミカルだが野口雨情の名作だ」
啓太「えっ? そうだったんですかっ!」
西園寺「知らなかったのか?」
啓太「はい……。今の今まで 『たらったらったらった』だとばかり……」
中嶋「それは次のフレーズだ。丹羽のは完全に間違っている」
滝「(こそっと)こんな歌まで把握しとう……。副会長恐るべし、やな」
成瀬「(同じくこそっと)そうだね。意外と言えば確かに意外なんだけど」
啓太「(やっぱりこそっと)でもみょーに納得できる自分もいるんだ(汗)」
滝・成瀬・啓太「……うん……(汗)」
滝「ま、まあ……。意外なんは意外やったけど、おかげで決着はついたな」
啓太「そうかなあ。俊介の言う 『たらったらったらったかそれ以外』のくくりだと、まだ4
    でイーブンだろ?」
滝「いんや。実を言うたら俺も 『ソソラソラソラ』やねん。妹にときどき歌ったりようしな。
    せやから逆転や」
成瀬「じゃあどうして今まで言わなかったんだい?」 ← 怒ったり呆れたり。
滝「せやかて負けとう方に票いれるんもなんかなあ。勝ち負け決める訳ちゃうから、あと
     出しじゃんけんにもならんし。ええやろ?」
啓太・成瀬「俊介……(怒)」
滝「え? あかん? ほ、ほな(焦)。結果が出たから俺の仕事はここまでや。今の話は他
    のお人らにはチクらんといてや。おあとよろしく〜」 ← 大慌てで部屋を出て行く。
和希「脱兎のごとく、ってやつだな(呆)。ウサギの歳だからまあいいか」
西園寺「ところで、臣」
七条「はい?」
西園寺「おまえとは確か年末にも同じ話をしたな? あのときにも『ソソレソレソレ』が正解
    だと言ったはずだが?」
七条「ああ郁。たとえ正解がどうあろうと、恋をした男の前では、そんなもの、何の意味も
    ありません。何故ならここにいるのは、ただ愛しい人の味方を探し求める吟遊詩人
    なのですから」
成瀬「七条? 日本語がおかしくなってないかい(笑)」
中嶋「おかしいのは日本語じゃなく存在そのものだろう」
七条「ああ、さすが人非人さんですね。おわかりにならなくても恥じる必要はありません。
    恋ができるのは人間だけなのですから、この気持ちがわからなくて当然」
中嶋「ああ。その程度のことで忙しい人間を何人も呼びつける。とてもじゃないが、俺には
    そんな真似はできんな」
七条「好きになった相手のためなら、そうせずにはいられないのです。成瀬くんなら僕の
    心の一端でもわかってくださるのではないでしょうか」
成瀬「まあね(苦笑)。実際にするかどうかは微妙だけど、でも和希のためにならやっちゃう
    かも……」
和希「しないで下さい!」 ← 本気で迷惑そう(笑)。
篠宮「つまり七条は伊藤の歌ううさぎのダンスが正しいものではないと知り、それが納得
    できずに皆を集めた。そういうことだな?」
七条「(爽笑)」 ← 無言の肯定(笑)。
啓太「それってもしかして、原因は俺……?」
和希「そうなるな」← 迷惑なので怒りたいけど、啓太相手だから怒りきれてない(笑)
成瀬「なっちゃうかなあ(苦笑)」
丹羽「なるぜ」
中嶋「ふん」
啓太「ひぇ〜ん」 ← 事態の深刻さに怯えきっている。
七条「大丈夫ですよ、伊藤くん。今年も僕がちゃんと、君のことを守ってあげますから。ね」

その夜。BL学園学生寮では、何処からともなく聞こえてくる「うさぎのダンス」に、誰もが震えあがった。下手ではない。むしろプロ並に上手いにもかかわらず学生たちの脳裏から離れなくなるその歌は、鬼の副会長の声に似ていた。らしい。



     ソソラ ソラソラ 兎のダンス
     タラッタ  ラッタ  ラッタ
     ラッタ  ラッタ  ラッタラ
     脚で蹴り蹴り
     ピョッコ ピョッコ 踊る
     耳に鉢巻き
     ラッタ ラッタ ラッタラ

     ソソラ ソラソラ かわいいダンス
     タラッタ  ラッタ  ラッタ
     ラッタ  ラッタ  ラッタラ
     跳んで はねはね
     ピョッコ ピョッコ 踊る
     脚に赤靴
     ラッタ ラッタ ラッタラ

                           作詞 野口雨情
                           作曲 中山晋平 






いずみんから一言。

お、遅くなってしまいました(汗)。
すでに「明けましておめでとうございます」と挨拶もできません(滝汗)。
年末年始と異常なまでに忙しく、未だに原稿用ぱそ子に電源を入れ
られずにいる所為でもあります。
ネタは前からあったのにこんなにかかるとは思ってもみませんでしたよ(涙)。
こっちのケリがついたので、中啓バージョンにかかりたいと思います。
なんとか今月中に間に合わせたいです……。

ともあれ。本年もどうぞよろしくお願い申しあげます。ぺこり


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