025 花火 |
納 涼 花 火 大 会 と き 2005年8月22日 よる7時30分から ところ 公園前河原一帯 |
夏休みも半分終わりかけた頃。街のあちこちでこのポスターを見かけるようになった。それからというもの、どうにも俺はこのポスターが気になってしかたがない。買い物に行くたび、つい、目で追ってしまうのだ。 だって花火大会だよ? 中嶋さんと一緒に行けたら楽しいだろうって思うじゃない。ふたりで寄り添ってれば、立ってるだけでもきっと楽しい。ましてやそこに花火が上がってるんだ。楽しくないはずがない。 ところが中嶋さんときたら……。 「何をぼんやり見てるんだ」 「ごめんなさい。花火大会があるみたいだから……」 「そのようだな」 「ねえ、これ……。行きます?」 「行かない」 行かない !? ……行かないって、以上終わり !? いや。たしかに中嶋さんらしいといえばむちゃくちゃ中嶋さんらしいけど。でもそんなにあっさり言う? とっておきの上目遣いでおねだりしてみたんだから、もうちょっと何とか言い様も考えてよ。 「ここの花火はすごい人出だぞ。ろくに見えもしないのに、見物客にもみくちゃにされて疲れるのがオチだ。うちにいた方がいい」 だからぁ。その混雑がいいんじゃないか。中嶋さんにぴったり身体を押し付けることだって出来るし。はぐれそうになったら手をつないでくれるかもしれない。ああ、いいなあ。そのシチュエーション。母さんに頼んでふたり分の浴衣とか作ってもらってさ。俺は片手にかき氷か何かを持ってるんだ。でも人がいっぱいで俺と中嶋さんの間にどんどん割りこんできて。それではぐれてしまいそうになった俺の手を中嶋さんが掴んでくれるんだ。でもって、そのまま人気のないところまで行っちゃったりとか……。あわわわわわっ(赤面)。 頭の中でどんどん妄想は膨らんでいくのに、現実ってなんて厳しいんだろう。 そして今日。花火大会当日。 夜には王様が飲みに来るというので、夜からの勉強は午後の休憩時間に前倒し。そのかわりに夕食は作らなくていいことになった。ビールのおつまみにいいからとピザを取ることになったのだ。あとサイドメニューでフライドチキンとかポテトとかいろいろ。俺は自分用にコーラのビッグボトルとアイスクリームパフェも注文した。だってヤケ食いでもしなきゃやってられない。 だけどやっぱり1日分の勉強を夕食までに……、なんてむちゃくちゃハードだった。でもそれは俺だけじゃなかったみたいで、最後の方にはつきっきりになってしまった中嶋さんも、俺のノートに最後のマルをつけたときには疲れた顔をしていた。こういう時でも課題を減らそうとしない中嶋さんって、王様のセリフじゃないけど、ホント立派だ……。 ふたりでルーフ・バルコニーに出るとテーブルの上にはピザやサラダ。そして缶ビールやコーラの入ったワインクーラーが並べられていた。デリバが届いたことさえ気がついてなかったから、王様が受け取って並べてくれたんだと思う。ぐったりとした俺にコーラの入ったコップを王様が握らせてくれて、中嶋さんと王様が缶ビールのプルトップを開けたときだった。ヒューっていう音がしたかと思うと……。次の瞬間、バルコニーの向こうに花火が上がっていた。 「うっわー。ぎりぎりのタイミングじゃねえか」 「こいつが課題を終わらせないからだ」 中嶋さんが睨んだように思ったけど、俺は呆けたみたいに次々上がる花火を見ているだけだ。うちの前は森林公園みたいになってるから気がつかなかったけど、会場とここでは直線距離にして2km足らずくらいだろうか。それに向こうは河原でこっちは高台に建ったマンションの19階だ。意外なくらい大きな花火が意外なくらい近いところで展開していた。 「どうだ? 絶好のポジションだろ?」 「……はい」 「俺が気がついたんだぜ。感謝してくれよ」 「……はい」 王様に何を言われても「はい」としか答えなかったからだろう。俺の頭をくしゃっと撫でた中嶋さんが、そのまま自分の方に引き寄せた。 「おまえ……。俺が行かないって言ったあと、ずっと拗ねてただろう」 「……ごめんなさい」 だってバルコニーから見えるなんて思わなかったんだ。それに中嶋さんは花火なんて興味なさそうだったんだ。ちゃんと「うちにいた方がいい」って言ってくれてたのに……。 それでようやく俺は気がついたのだった。中嶋さんは王様が飲みに来たからではなく、ましてや自分が見たいからでもなく。俺に花火を見せてくれるためだけにこの場所に座っている、っていうことに。この時間に間に合わせるために、つきっきりで課題を見てくれたということに。 泣いていいのか笑っていいのか分からなくなってしまった俺は、間の抜けた声でなんとか「有難うございます」とだけ言った。花火の方を向いたまま、王様は缶ビールを上げて見せ、中嶋さんはくちびるの端をつり上げた。 幸せな夏の想い出にふさわしく、花火は夜空を彩っている。 |
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いずみんから一言。 有難うございます !! 本日、開店よりわずか85日目にして、早くも10000HITに到達することができました。 これもご来店くださる皆様があってこそです。心より御礼を申し上げます。 ということで記念に花火を打ち上げました。大会の日にちはもちろん今日です。 ポスターなのになんで年まで? と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。 実はこっそり、10000HIT記念だったんです(笑)。 ひっそりと路地の奥にあるようなカフェですが、今日からまた、次のステップに向けて がんばりたいと思います。 これからもよろしくお願い申し上げます。 本当に有難うございました。 |