青天白日 -The alarm clock is his voice-



 それはまだ薄暗い朝の、まどろむほどの余裕のない時間だった。

「………」
「和希?聞こえねえのか?」

 静まりかえった部屋の中で、小さな音と共に光を灯した携帯。
 何事かと焦った俺は、慌ててその音を鎮めた。
 けれど、聞こえてきた第一声は、

「よお!メシ食ったか?」

 メシなんか食うような時間じゃない。
 まだ俺は寝てたんだ。
 残り二時間の一番いいところ。

「…今、何時ですか?」
「昼に決まってるだろ!」
「…こっちはまだ朝の五時なんですけどっ!」
「………あ、わり…」

 しょうがない人だと思うのは何度目だっただろうか。
 もう呆れて物が言えないくらいに数えるのも面倒だ。

「まあ、いいですけど…。前にもあったでしょう?全く、時差ってのをよく忘れる人ですね。一応頭いいんですからそんな簡単なことくらいちゃんと覚えててくださいよ」
「悪い悪い!じゃあ寝ろよ」
「寝られるわけないでしょう!あと二時間で起きなきゃならないんですよ?この二時間がどれだけ勿体無いかわかってますか?」
「わかってるって!」

 わかってないから電話掛けてきたりするんだろう。
 逆の立場だったら…。
 だったら……。

 きっと気付かずに寝てるだろうな。

「…哲也に国際電話の掛けられる携帯持たせたこと、後悔しそうです」
「そんな怒るなって。今度は日本が夜ん時に掛けるから」
「その時間はそっちが深夜でしょう?……起こされたんだから一時間だけ付き合ってもらいますよ」
「おう!任せろ!」

 彼が渡米した三日後の午前五時。
 充電満タンな俺の携帯はどんどんその電池量を減らしてゆく。

 時差を覚えるようにと何度念押ししても。
 毎日毎日午前五時に着信音を響かせた。

 おかげで俺は。
 とうとう電話が鳴り始めるよりも前に、目が覚めるようになった。

 でも絶対に言わない。
 それじゃまるで「掛かってくるのを待ってる」ようだから。

 どこに居ても追い掛けると決めたからには、俺は待ってるわけにはいかないのだ。

 まあ、彼がホームシックにでもなってるのなら、そう言ってあげてもいいけれど。
 話をする内容は、どこで何をしたとか、友達ができたとか、明日は何があるとか…。
 俺を想って寂しくなって掛けてきたなんて掠めもしないようなものばかり。

 どう転んでも、部屋の隅で膝抱えて引き篭もってるような人じゃないからね。

 だから。
 突然降って沸いたかのような来週のアメリカ出張。
 絶対に教えてやらないことにした。

 それこそ、

「本当は出張じゃなくて俺に会いに来たんじゃねえの」

 って、鼻を高くするに決まってる。

 いつまで続くのかわからない早朝コール。
 俺は、頑なに曲げない信念の元で、彼からのコールに付き合う日々が続くことになった。




END





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最後の最後まで甘々にしないのもどうかと思います(承知してますよ。笑)
ううう、やっぱり呼び捨ては恥ずかしいモンですよ。
あまりに恥ずかしくてニワテツって呼びたくなりますよ(←?)
こんな後日談まで目にしてくださってありがとうございました。
更に哲っちゃん視点のSSはコチラからどうぞ。








いずみんから一言。

hulk さまが閉鎖で、最後の最後の作品として up されたのが「青天白日」。
哲っちゃんたちの卒業式の翌日の話だった。
これはその後日談。
ちょっと思いついたことがあってご感想ともどもメールしたら、哲っちゃん視点
でさらに1本オマケで up して頂けることになり、元のこちらも頂戴してきた。
伊住の妄想(笑)から出た哲っちゃん視点は、美和さまのコメントからどうぞ。



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