抱擁(「呪縛」啓太サイド)





「見られるのがそんなに嫌なら、少しくらい寒くても我慢するんだな。」
「は、はい。」
 パタリと目の前でドアが閉められた。
「お、王様のばかぁ。」
 たぶん俺今凄く情けない顔してると思う。
 泣きそうというかなんと言うか・・・だってだって・・・。
「こんな途中で放り出さないで・・中嶋さん。」
 体中が痺れたように疼いている。それなのに、王様の一声で中嶋さんは行為を中断してしまったのだ。
「なんであそこで止められるんだよ。中嶋さんの莫迦。」
 俺なんか動く事だって出来なくなってるっていうのに、なんであっさりと立ちあがって、俺の事抱き上げて歩けちゃうんだろう?全然興奮してないって事?もしかして全然感じてない・・?
「そんなことないよね?」
 俺だけが盛り上がってた?まさか・・・そんな事ないよね?
 だって中嶋さん・・俺の事見てくれてたもん、あの、いつもの俺の好きな目で見つめてくれてた・・だから、俺だけが欲しがって、たなんて事無いはず・・だよね?


 学生会室での幸せな時間の後、よろよろで歩けない俺の体を支えながら中嶋さんはここまで俺を連れてきてくれた。
 そうして甘い時間の再開。
 制服を脱がされて甘く耳朶を齧られて、俺はゾクゾクしながらその瞬間を待っていた。
「中嶋さん・・早く帰ってきて・・。」
 中嶋さんに見つめられるのが好きだ。
 いつもは冷たい瞳が、俺が乱れるたびに少しずつ熱を帯びてくる。
 いつもは俺に見向きもしない瞳が、俺だけを見つめてくれるから、だから俺は感じてしまう。
 見られるだけで体中が熱くなる。
 見つめられて、触れられて俺の体は痺れだす、そうしてだんだん夢中になっていく。
 中嶋さんに酷い言葉を言われて凄く凄く悲しくなるけど、そして激しい行為は体中が痛くなるけど、でもあの瞳が俺だけを見てくれるから、俺の好きな少し冷たい指先が体中に触れてくれるから、俺は、そんな悲しみや痛みなんてどっかに吹き飛んでしまうくらいに夢中になってしまう。
「中嶋さん。」
 なのに、中嶋さんは気まぐれで、俺の気持ちなんて分かってはくれない。
 俺が必死になって見つめるのをただ笑ってみている。
 俺が好きだって言うのも、本気にはしてくれない。
 そうして、気まぐれに去っていってしまう。いつだってそうだ。
「早く、早く帰ってきてよ。中嶋さん。」
 触れられていた場所が熱い。触れてもらえなかった場所が熱い。
 さっきまでのことを思い出すだけで、俺の体に甘い痺れが走る。
 なのに、中嶋さんは傍にいない。王様の呼ぶ声に簡単に俺を放り出して出て行ってしまったんだ。
「早く帰ってきてよ・・。」
 体が熱くて、どうしようもなく熱くて俺は途方にくれてしまう。
 中嶋さんを思う心が強すぎて、俺はいつも途方にくれてしまうんだ。
「中嶋さん・・・。」
 冷たい指先が俺の体に触れるたびに俺はゾクリとしてしまう。
 中嶋さんの瞳が俺の体を観察するのはいつもの事で、だけど俺にはそれが恥ずかしくてたまらないから、視線なんて合わせられない。
 見られてるって思うだけでなんだか泣きそうになってしまうんだ。それが嬉しいくせに、なのに泣きそうになる、どうして良いのか分からなくなって、途方にくれて泣きたくなってしまうんだ、凄く莫迦みたいだけど。
「中嶋さん。」
 名前を呼ぶだけで幸せになる。一秒でも早く戻ってきて欲しい。
 放っておかれると不安になるから。
 俺の事なんてどうでもいいんじゃないかって不安になるから。
 だから、早く戻ってきて欲しい。戻ってきて早く俺を抱いてよ中嶋さん。
 体中が熱い。熱くて熱くてたまらない。
 一人なのに、なのにこんなに体中が熱くて俺はどうしていいのか分からずに途方にくれてしまう。
 一人だと思うと辛くて、色々考えてしまうから俺はそっと目を瞑る。
 中嶋さんのことだけを考えるために、目を瞑る。
 不安なんてないんだって、なにもないんだってそう思うためにぎゅっと目を瞑って、そうして考える中嶋さんの事を、そうして思い出す、さっきまでのこと。


 学生会室で、中嶋さんの膝に座って、プレゼントを付けさせてもらった。
 俺が選んだのはドッグタグ。つめたい金属の感触がなんとなく中嶋さんぽいかな?って思ったんだ。
『俺に付けて欲しいのか?』
『はい。』
 ドキドキしながら頷くと、もの凄く嫌そうにしながら
『ほら。』
 と渡したばかりの包みを俺に返してきた。
『やっぱり嫌ですよね・・。』
 しょんぼりしてうつむくと、中嶋さんはくくくと笑って『莫迦そうじゃない』とピンッと俺の額を指で弾いた。
『痛いです。』
 悲しい気分も手伝って涙目になりながら睨んでも、中嶋さんは面白そうに笑ってるだけだ。
『なんですぐデコピンするんですか!』
 中嶋さんはいつも突然に俺の額を弾く。ピンッというか、ピシッっというか、音がしそうなくらいに痛い。
『しやすい額だからだ。』
 なのに中嶋さんは当然の様にそんな事を言う。
『そんな・・。』
 そんな理由って酷いと思う。
『なにをぼやっとしてるんだ。』
『え?』
『それ。付けて欲しいんだろ?俺に。』
『付けてくれるんですか?』
『お前がどうしても・・とお願いするならな。』
『付けて欲しいです。すっごくすっごく付けてほしいです!!』
『そんなのはお願いですらないな。』
 煙草の煙を吐きながら、中嶋さんが笑う。
『お願いします。中嶋さん。これを付けてください。』
『くく、莫迦な奴だな。』
『え?』
『本当にお願いする莫迦がいるか?プレゼントなんだろ?』
 そうだよ、プレゼント。凄く凄く悩んで悩んで選んだもの。
 でも、気に入ってもらえなきゃ意味が無い。迷惑だって思われたら意味がないんだ。
『つけてやるよ。啓太。ほら。』
 笑いながら中嶋さんはネクタイを緩め、シャツのボタンをはずして手招きする、でも俺は、意味が分からずにきょとんとそれを見つめていたら『何をぼんやりしてる。』とまたピンッとデコピンされてしまった。
『いたっ!何ですか?』
『何ですかじゃないだろ?お前がつけるんだ。俺に。』
 そう言って煙草の火を消して誘うから、俺はふらふらと中嶋さんの太ももにまたぐように座り、ドッグタグをつけるとそのまま、腕を回してしがみついた。
『中嶋さん・・・。』
『お前まで首にまとわり付く必要は無いんじゃないのか?重いぞ。』
 くくくっと笑いながら中嶋さんが言うから、『俺込みでプレゼントなんです。』と耳元にささやいた。
『返品するぞ。』
『しないでください。しちゃ嫌です。』
『ふん?』
 ぴしっとまた額を弾く指。
『痛いです。』
『当然だ痛いように弾いたんだからな。』
『ううう。酷いです〜。』
『少し黙れ、煩い。』
 そういって中嶋さんは、俺の唇をふさいだんだ。


「中嶋さん・・。」
 思い出すうちにどんどん、体が熱くなってきた。
 放り出されて体の熱がさめるどころか、どんどん熱くなってくる。
「触って・・早く・・。」
 いけないと思いながら、手が動き出す。
 これは俺の手じゃない、中嶋さんの手だ。俺の好きなあの少し冷たい指先。
 思い出しながら、動かしていく。
「中嶋さん・・・好き・・。」
 ぺたりと床に座り込み、まぶたを閉じたまま指を滑らす。
 こんなことしていたら怒られる。中嶋さんに怒られてしまう。
 だけど、とまらない。
 体が熱くて、耐えられないくらいに熱くて・・・早く熱を開放したくて・・我慢が出来ない。
「中嶋さん・・・。」
 学生会室で、中嶋さんは俺にとても優しくしてくれた。
 普段では考えられないくらいに優しくて・・俺は凄く嬉しかったんだ。
「はあ・・・。」
 我慢しきれずに声が上がる。指が動くたびに狭いバスルームに濡れた音が響く。
「中嶋さん・・・・・。」
 俺の体は熱く熱くなって、そして・・・・。





作品リストへはウインドウを閉じてお戻りください。
2へ進みます