となりでねむらせて 空港に到着し、疲れた体を引きずりながら、一週間もの研修へ出発前の啓太の顔を思い出す。 『気をつけて下さいね。』 19日には帰れると言った俺を、笑顔で送り出した啓太。 啓太とは足掛け6年の付き合いになる。 自分が一人の人間とこんなに長く付き合う事が出来るとは思っていなかったが、何故か悪い気はしない。 啓太の顔を思い出していたら、ふと近くの花屋が目に止まる。 時間も遅い事もあり、余り残っていなかったが、ありったけの薔薇を包んで貰う。 (こんな物でも仕方ないか。) らしくない自分に心の中で笑いながら、花と荷物を抱えてタクシーに乗り込む。 深夜のタクシーの中で、俺は少し焦っていた。 本来なら、今日は昼過ぎには帰れる筈だったんだ。俺もそのつもりだったし、啓太にもそう伝えてあった。 それなのに、無能な連中が延々と会議を引き延ばし、帰って来れたのは19日ももうすぐ終わろうとする時間だ。 深夜の道をタクシーに飛ばさせながら、啓太の事を考える。 啓太は俺と付き合うようになってから、猛勉強を始めてどうにか俺と同じ大学に滑り込んだ。 約束通りに同居を始めると、啓太は自然に家事を積極的にこなすようになった。始めは手慣れなかった家事もすっかり板につき、今では俺も外食よりも啓太の手料理を食べる事が多くなっている。 昨日も今日帰れる時間を連絡しただけなのに、啓太はいやに嬉しそうな声を出していた。それに、久しぶりに夕飯を一緒に取れそうだと言ったら、酷く張り切っていた。 (可哀相な事をしたな) 啓太が一人で俺の帰りを待っているかと思うと、心ばかり急いてしまう。啓太が記念日などイベント好きなせいで、俺も自然に気にするようになっていた。 啓太は何も言わなかったが、今日は俺の誕生日だ。さぞかし頑張ったんだろう。 マンションに着いて部屋に入ると、異様に暗い事に気付く。 「啓太?」 俺が声をかけても一行に啓太が出てくる気配がない。荷物を置き、コートを脱いで台所を覗くと、暗い中で食事を前に啓太が突っ伏して寝ていた。 微かに腫れている瞼に、一人で泣いていたのかと思い、そっと髪を撫でる。 「……ん…っ……」 身じろぐだけで目覚めないということは、余程深く眠り込んでいるんだろう。 啓太を起こさないようにそっと抱き上げると、その軽さに驚く。 (また痩せたな…) 啓太は一人だと食事を抜く傾向があった。俺の出張中、またちゃんと食べなかったんだろう。今日も用意してあった食事には一切手がつけられていなかった。 軽い体をベットまで運び、横たえる。ここまでして起きないとは、余程深く眠り込んでいるんだろう。 俺はそっと寝室を出て、溜め息をつく。 (とりあえず、風呂にでも入るか…) 買ってきた花を無造作にバケツに突っ込み、荷物はそのままでとりあえずシャワーを浴びる事にする。 シャワーを浴びて部屋に戻っても、啓太はまだ眠っていた。 啓太をパジャマに着替えさせ、隣に滑り込む。 「………ぅ……ん…」 自然に俺に擦り寄ってきた啓太の髪を撫で、体を抱き寄せる。 暖かい啓太の体温に、眠りに誘われ、久しぶりの安息を得る。 (…悪くない……) 甘い思考に支配されながら、我ながら自分の思考が理解できないでいた。だが。こんな気分も悪くないと感じる自分も確かに存在するのだ。 啓太の柔らかい髪に口づけ、聞こえていないのが分かっていながら呟く。 「明日はきっと二人で出掛けよう…」 豪華な食事も祝いの言葉もないが、こんな誕生日も悪くない。 *End* となりでねむらせて ver.K へ 〜 Teal Blue 須崎桜乃 さま 〜 |
いずみんから一言 悪くない。悪くないですよぉっ。須崎さまっっ♪ 抱き上げても啓太くんが起きないのは、自分を抱き上げた手が 中嶋氏のだと分かっているから起きないんですよね、きっと。 さりげないけど、ラブラブでいちゃいちゃ。 どうもごちそうさまでした。 啓太くんの代わりに私がおなか一杯です♪ |
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