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KOI-GOKORO~夏の日の出逢い~



1.誘う者、誘われる者


 もしも、過去に戻れるのなら、俺はその出逢いを無かった事にしたいだろうか?
 そう、今も時々考える。
 24歳の夏に出逢った天使。今でも思い出す。リアルな記憶。
 天使と出逢い、何年も振り回され、そして囚われた。
 美しくて、儚げで、みだら・・・それが彼のすべてだった。
 出逢わなければ、心安らかに暮らせた筈。
 けれど、
 出逢わなければ、毎日はきっと、色も音も全てを失った様に味気ないものだったろう。
 今でも時々考える。
 その出逢いは、俺にとって必要だったのか、それとも必要悪だったのか・・・・考える。


+++++++++++


「山岸さんに、お願いがあるんです。」
 そう電話してきたのは、高校時代の同級生の弟で、友達、いや友達というか、同類の長谷良人だった。
「なんだよ改まって、女か?」
 笑って聞き返すけど、女の話の筈が無い。こいつは俺と同類。女には一欠けらの興味も持てない人種だった。
「山岸さん、莫迦にしないで下さい。俺、本気なんですから。」
「わかってるよ、ごめん。で?なに?」
「実は、逢って確かめて欲しい人が居るんです。その子が俺の事をどう思っているか、みてくれませんか?」
 あまりといえば、あまりな話に、なんと答えたものか・・・と言葉を探してしまう。
「それ、つまりどういう話なんだ?」
 意味はわかるものの、相手がこいつなだけに、素直に結び付けられない、つまり?それは・・・?
「だから、つまり・・・俺はその子が好きなんですけど、だけど。」
 言いよどむ雰囲気に、長谷の気持ちがどの程度のものかをさっして、興味をさそわれてしまう。
 同類の集まる店で、気に入った奴が居れば、即持ち帰り、そして、次の日には、顔も忘れてしまう。
 そんな人間が、今更?好きな人がいる?
 これはなんの冗談だ?
「ふうん?美人?」
 興味を悟られないように、さりげなく聞いてみる。
 こいつに、こんな話をさせる人間がいるなら、見てみたい。
「はい。俺にとっては天使です。」
 即答。俺は軽く口笛を吹き、そしてこう答えた。
「じゃあ、一度店に連れておいでよ。みてやるから。」

+++++++++++

「こいつの兄貴と同級なんですよ。山岸司です。よろしく。」
 美人、確かに長谷はそう答えた。
「守也と呼んでください。せんぱい。」
 にっこりと笑う、目の前の少年。
 電話が来てから、そう幾日も経たないうちに、長谷は俺が経営するパブに、その相手を連れてきた。
 予想以上の出来に俺は、年甲斐も無く緊張しながら、余裕の振りで、観察する。
「先輩?俺?」
「はい、長谷さんの先輩だから・・『せんぱい』・・変かな?」
 小首を傾げ聞く姿、自分の魅力を全部知り尽くした様なとびきりの笑顔にゾクゾクする。
「いいよ、守也、よろしく。」
 右手を差し出し、握手しながら、その顔をじっと見つめる。
 よく出来た人形の様な顔。
 やわらかそうな髪、形のいい唇、じっと見つめる大きな瞳。
 こいつは、天使なんかじゃない。悪魔かそれとも・・・。
「よろしくお願いします。せんぱい。」
 にっこりと、人形が微笑む。
 そう、こうして俺は出会ってしまったのだ、守也と・・・。

+++++++++++

 カウンターに座った二人が、時折笑い声をあげながら、店の看板メニューなんかを食べ、守也がようやくうちとけた様子を見せ始めると、長谷は、打ち合わせ通り、トイレへと立った。
「守也?」
「はい。」
 後は、俺が予定通りの台詞を吐き、守也に本音を聞きだす。

         そういう手筈になっていた。

「守也は長谷の恋人?」
「違うよ、なんで?」
 即答。
 思わず長谷に同情しそうになる程、守也はあっさりと否定してみせた。
「どうしてそんな事聞くの?」
 首を傾げ、そして少し警戒したように、聞いてくるから、慌ててしまう。ここで長谷の頼みがばれたら大問題だ。
「なんとなく、守也が恋人なら、楽しいかなって。いきなり突っ込んだ質問して、気を悪くした?」
 我ながら苦しいいい訳だと思いつつ、苦笑しつつ答える。
 これ以上、一体何をこの子から聞き出せというんだ?
 え?長谷?お前見込みゼロだぞ?
 俺は、気の毒な後輩を思いつつ、言葉を捜すしかない。
「ふうん?せんぱいの範囲内?僕。」
 くすくすと(守也にとって、こういう質問すら、本当は挨拶程度でしかないのかもしれなかったのだが。)気を悪くした風もなく笑いながら言うから、俺も笑顔を作り答える。
「そうだったらどうする?」
 言いながら、笑顔を作りながら、本気で焦ってしまう。
 おいおい、本気か?何を言い出すんだ?俺は。
 俺が誘ってどうする?
 この子はあいつの思い人だぞ?
「そうだったら?そんな事ないよ、僕、子供だし。」
「子供・・・そうだな、15歳は子供だね。」
 そう言いながら、時折見せる大人びた顔は、とても15歳には見えないけど・・・と思う。
「せんぱいって、いくつなの?」
「24だよ。」
「なんだ、たった9歳なんだ、年の差。」
「?」 
 あっさりと言う姿に、今度は俺が首を傾げる番になった。
「9歳なんて、大したことないよ。そうでしょ?」
「そうかな?」
 年の差はともかく、俺が手を出したのがばれたら、青少年法に引っかかるだろ?何せ、君は子供なんだから。
「うん、たいしたことないよ。・・・ああ、もう!!早く大人になりたいよ。皆して、子供子供って、そうやってなんでもかんでも子供って一言で済まそうとしてる。」
「そんなつもりは無いけどね。」
 プンとふくれて、ストローをかじる姿を見つめながら、くすくすと笑う。
「じゃあ、どんなつもり?」
「さあね。」
 笑って言いながら、客のオーダーのサラダと揚げ物を作りだす。平日の給料前とあって、店はそんなに混んではいないけれど、守也ばかりを相手にしているわけにもいかなかった。
「美里ちゃん、これ運んで。」
「は~い。」
 料理を作り、バイトにそれらを運ばせる間も、つい守也をみてしまう。拗ねた振りをして、返事もせず、グラスの中の氷を、ストローでつつきながら、頬杖をつく、そんな姿さえ一枚の絵のようだ。美人、そうだな・・・・美人だよ。
「甘やかしてくれるのは、好きなんだけどな。」
 そうぼやく声が聞こえた頃、長谷がやっと戻ってきた。
「何が好きだって?」
 不安と期待の入り混じった表情で、守也にそっと声をかける。
「長谷さん?トイレに行くだけなのに、なんでそんなに遅いのかなあ?あれ?何持ってるの?」
 白いコンビニのビニール袋。これも予定通りの行動だった。
「アイスだよ。守也バニラでいい?」
「うん、バニラ好き。」
「だと思った。はい、山岸さんも。」
「サンキュ。」
 一瞬、視線が絡む。『どうだった?』という伺うような眼。
「外暑いですよ。かなり蒸しますね。」
「まだ7月だってのに、嫌だねえ、熱帯夜。」
 どうしたものか・・・この後。
「守也、ごめん、俺用事出来たんだ、それ食べたら帰ろう。駅まで送るから。」
 予定された台詞。
 俺が様子を見て、脈がありそうなら『じゃあ、またおいで、守也』と送り出す、だけど・・・。
「何だ?急用か?」
 脈は、無いのかもしれない。守也は即答した、恋人では無いと、だが・・・長谷を慕っていないわけでもなさそうだ。
「はい、ちょっと・・・。ごめんな守也。」
 謝りながら、長谷が俺を見つめる。
 天国か地獄か、長谷にとって、それが今の心境だろう。
 後輩の恋愛を、応援したい気持ちも無いわけじゃない。
 だけど・・・・俺は・・・だけど。
「・・・・・守也は時間あるのか?なら、もう少しいたら?」
 とたん、長谷の顔が泣きそうにゆがんだ。
「え?でも、この辺り・・・一人で歩くのは・・・あの・・。」
「大丈夫、なんなら、送るから。」
 嘘じゃない、守也は即答したんだから、そんな言い訳をしたくなる程、興味があった。
 このまま帰したくない。
「・・・・・。」
 無言のまま、長谷が見つめているから、俺は、苦笑してうなずくしか出来なくなる。
 何をやってるんだ?俺は・・・。
「じゃあ、そうしなよ、守也。すみません山岸さんお願いします。守也ごめん、明日電話する。」
「うん、じゃあね。」
 しぶしぶ守也がうなずくと、安心したように、長谷は笑って店を出て行った。
 本当に帰る気かよ、おいおい。・・・まあ、いいか。でも、あいつ今晩眠れるのかね。
「せんぱい?あれで恋人なんて思わないでしょ?」
「そうだね。」
「恋人なら、普通しないよ、こんな風に置き去りなんて。」
 守也は本気で怒っているらしい。
 もしかしたら、ほんの少しでもあった可能性を、俺が今消してしまったのかもしれない。
「もしも、僕を気にって、優しくしてくれてたのだとしても、つまりそれだけなんだ。本気じゃないんだよ。」
「・・・・守也は、好きな子いないのか?」
 なんとなく、捨てられた子猫のようにもみえてしまう、その姿に俺は、言葉をさがしてしまう。
「今は、いない。せんぱいは?」
「俺?俺は、じゃあね・・・。守也かな。」
 にっこりと笑って答える。
 折角、手の内に残った獲物だ。楽しまなきゃ嘘だ。
「ほらまた莫迦にしてる!!」
「莫迦になんかしてないって、守也は凄く可愛いし。本気だよ。ね、俺は守也の範囲外?」
 さらりと、思惑を隠し、笑顔で誘う。
 長谷には出来ない芸当だろう。あいつは今頃、淋しく一人で電車の中だ。
「ふうん?僕はね、甘やかしてくれる人が好き。」
「甘やかされる?」
「うん、それが好き。」
 にっこりと笑う。天使の笑顔だ。
「へえ?甘やかすの上手いよ、俺。大人だからね。」
 カウンターに人が居ないのをいい事に、本気で誘い出す。
「ふうん?なら、範囲内かも。・・・なんて失礼だね。」
 クスクス笑いながら、アイスを食べ終えて、守也はじぃっと俺を見つめる。綺麗な顔だ。
 長谷は守也の何処に魅かれたのだろう?顔か?性格か?
 それとも・・・・。
「ね、もう少しここにいてもいいんだよね?」
「ああ、いいよ。」
 魅かれてる、始めてあったばかりなのに、たった15歳の子供に本気で魅かれ始めている。
「じゃ、ここで大人しくしてるね。」
 にっこり笑う守也に、俺は笑顔を返しながら、身体の芯が、熱くなって行くのを感じ始めていた。

+++++++++++

 バイトの二人を帰し、残った客の相手をしながら、守也の視線を感じるのは、気分が良かった。
「ありがとうございました。」
 最後の客を送り出し、看板をしまいこむと、Closeの札を下げ店の中に戻る。
「あ~あ、つまんない。」
「長谷に置いて行かれたのが、そんなにつまらない?」
「うん。」
 素直にうなずく姿に、罪悪感がチクチクとし始める。
「そっか、引き止めて悪かったかな?」
「ううん、だって、駅に置き去りだよ?ここに居させてくれたほうが、よっぽどいいよ。ちぇ、夜遊びに連れて行ってくれるって楽しみにしてたのにさ。」
 どうやら、長谷が居ない事が、つまらないのではなく、自分を置いていったっていう行為に拗ねているらしい。
「そっか、じゃあ、夜遊びは無理だけど、家に泊まってけば?」
「え?」
「それとも、外泊許可はないのかな?」
 このぐらいの年齢って、親って厳しいんだっけ?
 忘れちまったな。
「そんなのちゃんと、言ってきたよ。」
「なんて?」
「せんぱいの家で、テストの勉強するんだって。」
 おいおい、マジに子供の会話だな。
「くす。じゃあ、OKかな?」
 会話だけか?中身はどうなんだ?
「うん、OK。」
 判断の付かない天使の笑顔で、守也がうなずいた。



※※※※※※※※※※

守也と司は、みのりのオリジナルキャラの中で、もっとも悪役のコンビです。
ある意味、ヘヴンの中嶋さんよりよっぽど鬼畜な方々が登場するかなり長いシリーズです。
なんでもありで話が進んでいきますので、お付き合い頂けたら凄くうれしいです。





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