銀の月 1


               
 月明かりの中、僕はゆっくりと歩いていた。
 色とりどりの薔薇が咲く庭を、館に眠る大切な人の為にその花を摘みながら、ゆっくりと歩いていた。
「いい香りですね。」
 1本1本そっと籠に入れながら薔薇の香りを胸の奥まで吸い込むと、僕は少しだけ重くなった籠を両手に抱え直しそして空を見上げた。
 月の光が夜の闇を照らしていた。
 冷たい光が僕を照らしていた。
「月は変わらない。いつも同じくそこにある。」
 丸い月。三日月。針のように細い月。
 目に映る形は違っても見上げれば月は変わることなくいつも夜の空を照らしている。
 どれだけ月日が流れても、月は変わらず昔も今も夜の闇を照らしている。
「いつの日か僕が消える時も、あなたはそうしてそこにあるのでしょうね。」
 見上げながら僕はつぶやいた。
 郁が消えてなくなる日。
 自分が消えてなくなる日。
 郁が眠りについてから、僕はその日を思うことが多くなった。
 穏やかに過ぎる毎日。僕はこの時が永遠に続くのだと信じていた。
 あの夜までは。―――――――――――


『臣。私はこれから眠りにつく。』
 薔薇の園を歩きながら郁は静かにそう言った。
『郁?それはどういう事ですか?』
 驚いて僕は郁の美しい顔を見つめた。
『私の体はもう限界が来ている。』
『限界?それは・・・。』
 戸惑いながら僕は郁に答えを求めた。
 出会った時と何も変わらない美しい顔。細い指先も白い肌も何も変わってはいない。
『私達にも寿命があるということだ。生命の連鎖から外れて生きる魔物でも寿命はある。
 臣。私は眠る。そしていつか消える。』
『消える?』
『そうだ。・・・・お前の事だけが気がかりだけれど。それでもこれだけはどうする事も出来ない。
 臣。すまない。お前を一人にしてしまう。』
 苦しげに告げ郁は僕を抱きしめた。
『郁?あなたは消えてしまうの?本当に?』
 どうしても信じられず僕は郁の頬に触れながら聞いた。
『ああ。消える。私の同族達がそうだった様に私は長い眠りについて、そして少しずつ朽ちて行く。
 朽ちて砂となって、そして後には何も残らない。髪一筋も。爪先さえも残らず消える。』
『そんな・・・。』
『すぐにではない。今すぐに消える訳ではない。眠りについても時々は眼を覚ますことも出来る。
 けれど眼を覚ますたび私は老いて行く。手や顔に皺が出来、髪が白くなる。声がしわがれて・・・そして。』
『やめて!止めてください!!』
 悲鳴をあげながら僕は両手で耳を塞いだ。
 悪い冗談を言っているのだ。郁が消えるなんてそんな事信じられない。
 こんな話を聞いてはいけない。本気にしてはいけない。
『お前が寂しさに耐え切れぬときは私を起しなさい。私の体が朽ち果てるまでは何度でもお前を抱きしめよう。お前の名前を呼んで、お前の髪を撫でてあげる。私はお前を愛しているよ。臣。私の大切な子。』
 耳を塞いで、ぎゅっと眼を閉じる。
 聞こえない。そんな酷い話なんて。なにも見えない。郁の辛そうな顔なんて。
『臣。ちゃんと眼を開けて私を見るんだ。そしてちゃんと話を聞いて。』
 なのに郁は酷いことを言う。僕を抱きしめながら酷いことを言う。
 こんな話を聞けなんて。こんな辛い現実を僕に教えるなんて。
『郁・・・嫌です・・。郁が居なくなるなんて。消えてしまうなんて。』
 子供の様に駄々をこねながら、僕は涙を流した。郁の細い体に抱きついて冷たい体に頬を擦り付けながら泣いた。
『仕方の無いことだ。私は長く生きすぎた。』
『郁。嫌です。そんな事を言わないでください。』
 髪を撫でられながら僕は泣き続けた。
『臣。お前を愛しているよ。私が消えるとき・・・お前が一人では無いといいのだけれど。』
 髪を撫でながら。郁は祈るように言った。
 その夜から郁は眠りについた。
 消えるための眠り。消えるための長い長い儀式。
 その日から僕は一人で長い時を過ごした。
 日が昇り日が沈む。月が夜を照らし朝が来る。
 長い長い時を僕は嘆きの中で過ごした。
 長い長い時を孤独に耐えながら過ごすしかなかった。

「同じことばかり考えていますね。」
 独り言が癖になっている事に気がついたのはいつだっただろう。
 いつの間にか僕は思いつくままに言葉を吐くのが癖になっていた。
「不毛ですね。分かっているのに・・考えてしまう。」
 郁の事、自分の事。
 消えるという事。
 消える瞬間僕は何を思うのだろうか。郁は今何を考えているのだろうか。
 死を迎える為の眠り。その眠りでも夢は見るのだろうか。
 死が郁と僕を引き離す。
 やがて郁の体は動かなくなり、何も感じなくなる。
 薔薇の香りも、月の輝きも、何も分からなくなり、何も見えなくなる。
 そよとした風を感じることもない。鳥の声を聞くこともない。
 そして体は塵と化す。
 始めから何も存在しなかったかの様に『無』となる。
「その時僕は何を思うのでしょうか。
 消えることへの恐怖?それとも悲しみ・・・。ねえ・・・郁。」
 厚いカーテンで塞がれた窓を見つめながら僕は郁へ問いかけた。
「郁、あなたは今何を考えているのですか?何を思っている?
 あなたの眠りは終わりではない。まだその時は来ていない。
 僕には分かる。まだ終わりではないと・・・でも、近づいてきている。
 その時は確実に近づいてきていて、そして僕とあなたを確実に引き離す。
 そうなのでしょう?郁。」
 深い悲しみと無力感。そして諦め。
 僕はため息と共にそれらの思いを吐き出した。
「郁の部屋に早く飾ってあげましょうね。郁の眠りが安らかであるように。」
 月の光が照らす庭。
 ずっとここは僕と郁の安らぎの場所だった。
 昔も今も・・・僕たちは・・・。
 ため息をついて僕はドアを開け、郁の部屋へと歩みを進めた。
 摘み立ての薔薇を郁へ届けるために。
 まだ郁の時間が終わっていないことを祈りながら、僕は歩いていた。

××××××

「夜遅く申し訳ありません。あの・・。」
「・・・。」
 小さく聞こえたその声に、僕は震えながらドアを細く開けた。
 蝋燭の灯りを頼りに外を見ると泣きそうな顔をした子供が一人立っていた。
「どうしました?旅の途中・・・ですか?」
「・・あの・・ええと。お、俺・・その・・・あ。道に迷ってしまって。あの・・それで灯りが見えて・・門の鍵が開いていて・・・だから。」
 小さな体には似合わない大きな荷物を両手に抱え、おずおずとそう言いながら声の主は頭を下げた。
「そう、道に迷って・・・この辺りは他に人が住んでいないから・・・大変でしたね。」
 僕は上手く笑えているのだろうか?少し焦りながら意識して唇の端を上げ、目を細めた。
「はい。あの・・・霧が出ていて・・俺目印を見失ったみたいで・・。」
 幻聴かもしれない。幻かもしれない。こんな夜中に人間の子供なんて来るはずがない。
 そんな思いを心の奥に押し込めて僕は少年の肩にそっと手を置いた。
「っ!・・・・夜遅く一人で心細かったことでしょう。さあ、今夜はここに泊まってゆっくり休んでくださいね。」
 びくりと指先が震えたのを誤魔化す様に、僕は早口で告げるとドアを広く開けた。
「いいんですか?」
「勿論です。たいした事はできませんが、暖かい紅茶でもいかがですか?体が温まりますよ。」
「ありがとうございます。」
 にこりと笑うと少年はぴょこんと頭を下げた。
「さあ、入ってこちらですよ。」
「はい。」
 歩きながら、僕は柄にもなく緊張していることに気がついた。
「どちらに行かれるつもりだったのですか?」
 居間に通し暖炉に薪を足して火力を強くして、お茶の用意をしながら尋ねた。
 今夜は風が強いから、きっと寒かったのだろう。彼の顔色が悪い気がするのは冷えすぎたせいなのだ。
「頼まれ物を届けに。大事な物を預かって・・だから。」
「そう。」
 どうしてここに来てしまったのだろう?この場所は人間が容易く来られる場所では無かった。
 館を囲むように存在する魔の森は入り組んでいて迷いやすい。人間の子供が一人で暢気に歩ける場所では無い。不思議に思いながら温めたカップに紅茶を注ぐと少年の前に差し出した。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。わあ、あったかい。」
 両手でカップを持ちながら少年が微笑む。
「外は寒かったでしょう?」
「ええ、とても寒くて・・。体がすっかり冷えてしまいました。」
「そうですか。」
 頷きながら思い出す、彼の温度。
 触れた指先が震える程に彼は温かかった。
 冷えていても、それでも温かかった。
「・・もっと暖炉の近くにいらっしゃい?・・ええと。」
「あ、俺啓太っていいます。」
「そう、僕は臣。臣と呼んでください。啓太君。」
「はい。臣・・さん?ですね。紅茶凄く美味しいです。」
「それは良かった。」
 笑顔を作り紅茶を口に含む。
 いつもと同じ香りと味。熱い液体を飲み込むと僕の体は一時だけ温かくなる。
「この辺りは他に住んでいる人が居ないって言ってましたよね?」
「ええ、誰も住んでいません。田舎ですからね。」
 住んでいる人など居るわけが無い。ここは魔物が住む場所なのだ。人は住まないのではなく、住む事が出来ない。
「寂しいですね。」
「もう慣れてしまいましたけれど。・・主人はあまり人付き合いが好きではないものでね。ですからこんな山奥に。」
 平気な顔で嘘をつく。魔物だと教える必要はどこにもなかった。知らないほうが良い事は存在するのだ。
「そうですか。へへ。俺歩いても歩いても誰にも会わないし、家もないし・・だから灯りを見つけたとき驚いたんです。幻かと思っちゃいました。」
「幻?ふふ。」
「だって本当に何もないんですもん。暗い森の中をずっと一人で歩いて歩いて、やっと明るい場所に出たと思ったら今度は何もない一本道。
 俺泣きたくなっちゃいましたよ。だからね、その道の先に見えた灯りが嬉しくって急いで駆けてきたんです。」
「そうですか。」
「はい。」
 笑いながら啓太は頷いて、そして紅茶をこくりと飲んでまた笑う。
 笑顔の可愛い子供だ。体が温まってきたのか頬が少し赤くなってきた。
 柔らかそうな明るい茶色の髪は、元気よくあちらこちらにはねている。
 可愛い子供。久しぶりに見る人間の子供。
 綺麗ではないけれど。郁の様に綺麗ではないけれど、なぜか視線を外す事ができなかった。
「・・・?臣・・さん?」
「え?」
「あの、俺の顔なにかついてます?あ、さっき転んだから泥とか?」
 慌てたように啓太は頬を手の甲でこすり始める。
「いいえ。大丈夫なにもついていませんよ。あなたみたいな小さな子供が夜道を一人で歩いて心細かっただろうなってそう思っただけです。」
「小さな子供って、俺もう16なんですけど・・・子供かな?やっぱり。」
「おや、そうでしたかそれは失礼しました。ふふ、でも子供ですよ?僕から見ればあなたはまだ子供です。」
 たった16年。たったそれだけの時間しかこの子供は生きていないのだ。
 16の時僕は何をしていたのだろう?もう思い出すことも出来ない。

 郁と一緒だった。
 郁しか僕には居なかった。
 ずっとずっと二人で生きてきた。
 16の時も今も・・・なのに、なのに・・。


「臣さんどうしたんですか?」
 不安そうに啓太は僕に聞いてきた。この少年の表情は豊かだ。くるくると変わる。
「え?ああ、いいえ。それよりも転んで怪我などしませんでしたか?」
 笑顔を作り啓太に尋ねる。表情を作る事を僕はまだ忘れてはいないようだった、その証拠に啓太はすぐに笑顔に変わる。
「え?ええと、足を擦りむいたかも?ちょっとだけ痛いかな?」
 傷を見ながら啓太がつぶやく。
「見せてください。」
 血の匂いには気がついていた。ささやかなものでも気づく。
 だから気になっていた。啓太からする微かな血の匂いが気になっていた。
「ちょっとですよ。本当にほんのちょっと。ここです。左足のくるぶしのあたり・・?」
 ズボンの裾を上げながら啓太は左足を僕の方へと向ける。
「少し血が出ていますよ?」
 傷口から血がにじんでいた。赤い赤い血の色。見た瞬間心の奥がざわざわと騒ぎ始めた。
「大丈夫ですか?痛くはありませんか?」
 そっと指先で触れる。血の色が指先に移る。
「血が出ていますね。少し・・・。」
 声が震えているのが自分でも分かった。
 ごくりと喉が鳴るのが分かった。
「大丈夫ですよそんなに酷い怪我じゃ・・・お、臣さん?」
 赤い血。・・・・温かい。
 指先で触れる。何度も擦るうちにぬるりとした感触が指先に伝わりだす。
 傷口を舐めてみる。ゆっくりと何度も舐めてそして温かい血を舌に感じながら飲み込む。
「あ、あの。汚れているし・・・あの。」
 温かい・・なんて温かいんだろう。
 舌先で何度も何度も傷口に触れる。ぴちゃりぴちゃりと湿った音が微かに耳に届く。
 僕は我を忘れて行為にのめりこむ。
「臣さん!!」
 啓太の悲鳴の様な声が聞こえた。
「!・・・・・消毒ですよ。」
 啓太の声が僕を一瞬で正気に戻した。
「消毒?」
 驚いたように啓太は僕を見つめている。瞳の中にあるのは拒絶だった。
「ええ、唾液には殺菌作用があるんですよ。」
 なんでもないように、当然の事の様に笑いながら話す。
 どんなに今の行為がおかしいと分かっていても、当然の様に振舞うしかなかった。
 血の味に陶酔していたなど悟られる訳にはいかなかった。
「・・殺菌・・そう、なんですか?」
「ええ、化膿したら大変ですからね。」
「そう・・・ですね。」
 変だと思っているだろう。当然だ。僕だって自分自身に驚いている。こんな経験をするのははじめてだった。
「消毒・・・なんですね?」
「ええ。勿論。他にどんな理由があるというのです?」
「そう、ですよね。他に理由なんかありませんよね。」
 無理矢理に啓太を納得させ、僕はにこりと笑顔を作る。
 どうせ明日には出て行くのだ。少しくらいおかしく思っていてもそれで終わる。
 おかしいと思っていても、この場所に来たのを後悔していたとしてもそれはたった一晩の事。この子供は明日の朝には居なくなる。大丈夫、たった一晩の事。
 自分自身を納得させながらそれでも少し不安になる。
 あまり長い時間一緒に居るのは得策ではないのかもしれない。
 傍に居たら何をするか分からない――――――――――今日の僕は変だ。
「もう夜も遅い。休んだほうがいいですね。ずっと歩き通しで疲れたでしょう?いまベッドの用意をしてきますね。ここで待っていてください。」
 血の匂いがする。そうだこれが原因だ。この匂いは僕を狂わせる。
「はい。ありがとうございます。」
「いいえ、困っている方を助けるのは当然のことですから。」
 動揺を隠すように笑いながら僕はドアを閉めた。
 口の中にはまだ血の味が残っていた。

××××××

「郁?今日は可愛いお客様が泊まっているんですよ。」
 啓太が眠ってしまうと僕はいつもの様に郁の部屋に来た。
 郁が眠りについてからの習慣。一人の夜を僕は郁の傍で過ごす。
 郁が眠るベッドの脇に椅子を用意して、眠りの邪魔をしないように小さな声で話す。
 薔薇の香りが部屋中に満ちていた。
「髪は明るい茶色で大きな瞳の男の子ですよ。道に迷ってしまったそうなんです。
 紅茶を二人で飲みました。暖炉の前に二人で座って。
 昔を思い出してしまいました。二人でよく紅茶を飲みましたね。郁覚えていますか?」
 問いかけても郁の表情は何も変わらない。それでも僕はかまわず話を続ける。
「僕はまだ笑い方を覚えていました。
 一人では表情なんかなんの意味も無かったけれど、でも彼は僕の笑顔に反応するんです。僕が微笑むと同じように笑う。彼の頬には小さなえくぼが出来るんですよ。
 まだ16歳だそうです。子供ですけれど、一人であの森を抜けてきたそうです。
 ずっとひとりで歩き続けて灯りを見つけてここへ来たんですよ。
 他人の声なんて聞くのは本当に久しぶりで、僕は始め啓太の声を空耳だと思ってしまいました。
 おかしいでしょ?幻かもしれないと思いながらドアを開けたんです。
 啓太に触れたとき僕は悲鳴をあげそうになりました。人間は温かい生き物ですね、僕達とは違う。
 僕はすっかりその事を忘れていました。ねえ郁・・・あなたは昔同じ事を僕に言いましたよね。」
 話しかけても郁は答えない。それでも僕は思いつくまま話をした。
 返事は無くとも郁は僕の話を聞いてくれている筈。そう信じて僕は話し続けた。
 まぶたを閉じたまま郁は僕の話を聞いている。
 閉じたカーテンの向こうから夜明けを告げる鶏の声が聞こえてきても、僕は憑かれた様に話し続けた。
「・・・・ねえ、郁。夜が明けていきますよ。」
 ずっとずっと郁は眠り続けている。
「郁、あなたを失いたくない。どうしたらあなたは消えずにすむのですか?」
 一方通行の会話は僕の心に影を作る。
「ねえ、郁。僕はどうしたらいい?」
 胸の上で組まれた手に薔薇の花をそえる。
 白い薔薇の花。郁が大切にしていた。白い薔薇。
「あなたはまだ生きている。眠っているだけ。ほら、薔薇が枯れてきた。まだあなたが生きているから。」
 涙がぽとりと郁の頬に落ちて流れた。
 涙がぽろりぽろりと落ちて花びらを濡らし郁の指を濡らした。
「どうしたらいいのですか?あなたを失いたくない。どうしたら・・・。」
 枯れた薔薇を籠の中に捨て新しい花を郁の周りに置いていく。
 薔薇の精気は僕達の糧だった。庭に咲く沢山の薔薇は僕達を生かすためだけに咲いているのだ。
 眠る郁は薔薇の精気をゆっくりと吸い込む。
「どうしたらいい?あなたは僕を助けてくれたのに。僕はあなたに何もしてあげることが出来ない。どうしたらいい?ねえ。」
 僕は何も出来ないのだろうか・・・泣きながら考えていた。どうしたらいい?どうしたら僕は郁を救うことが出来る?どうしたら?
「・・・もしかしたら。あの子ならあなたを助けることが出来る?」
 温かい人間の体。温かい人間の血。
「・・あの子供ならあなたの体も・・・もしかしたら少しでも時間を遅らせることが出来るかもしれない?」
 血の味が消えない。
 ほんの少し舐めただけの血の味が口の中に残っている。



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