約束〜もう一度あの場所で〜(13〜18)



2006/03/23(木) 約束〜もう一度あの場所で〜‥13

 ケイタの声と絡み付く視線に煽られながら、和希はゆっくりと指を動かし始めた。
「−−−−っ!」
 和希の指の動きにケイタの体は敏感に反応していく。
 和希が探るように指を動かし、抜き差しする度に、ひくりとケイタの白い腰が揺れ、声が響く。
「−−−あ、もっと‥奥もぉ。」
 ケイタは自ら脚を開き、和希の前に腰を突き出しねだる。
「奥?‥もっと?」
「うん‥‥もっと‥。」
 焦れたように自分から体を押しつけ甘えるケイタの姿に、翻弄され、さらに煽られていくのを感じながら、和希は誘われるままにソファーに片膝を付き、ケイタを背中から抱くようにしながら、さらに奥へと指先を動かしていった。
「ん。」
 ぎゅっと目を瞑り、快楽に耐えるケイタの横顔を見つめながら、和希は慣れない気持ちを持て余していた。
 愛しくてたまらない。−−−
 正直なところ、誰かを抱いて、和希がこんな気持ちになるのは始めてだった。
 和希は、今まで何人もの人間を戯れに抱いてきた。
 啓太を亡くし、自暴自棄になった和希は、夜毎に見る啓太の夢から逃れるために、手当たり次第に手を出していた。
 男も女も‥一人でも複数でも‥鈴菱の名と和希の外見のお陰で、いくらでも相手は見つかった。
 行きずりの相手と思いつくままのプレイを楽しんだ。刺激的な行為は強い快楽を生んで、和希の心から啓太の存在を、罪の記憶を一時的には消してくれた。だがそれだけだった。
 和希に組み敷かれ喘ぐ体は、なんでも言うことを聞く体は、ただ快楽を生み出し、欲望を吐き出す道具でしか無い。快楽‥それ以上のものを彼らは決して和希に与えてはくれなかったのだ。
「あぁ‥。和希さ‥ん。」
 律儀に名前を繰り返すケイタ。客と男娼。関係は今までの相手と変わりはしない。なのに‥。
 和希の行為に感じる声も、快楽に耐え切れず、ガクガクと震える細い脚も、和希の心を誘うのだ。
 もっと感じて欲しい。
 ケイタ、もっともっと狂ったように俺の名前を呼んで、求めて欲しい。−−−−そんな思いは始めてだった。
「ここがいいの?ケイタ?凄く‥いいんだ?」
 意地悪く囁く和希の声に、潤んだ瞳で見つめ、息も絶え絶えに頷き答える姿。それだけで、和希は切なくなる。愛しさで苦しくなる。 
「可愛いね。ケイタ。どうしてなんだろう‥。
どうしてこんなに‥。」
 愛しいんだろう‥。−−−−−啓太以外の誰にも、和希はこんな思いを抱いたことは無かった。抱いてる間も、その後も。
 なのに、なのに‥。
「いい?ケイタ?」
 ケイタの首筋に口付けながら、和希はベルトを外しファスナーを下ろす。
「うん‥和希さん‥きて‥。」
 こくりと頷くケイタに、和希はゆっくりと身を沈めて言った。

××××××

「辛くない?」
 シャワーで体を流しながら、和希は腕の中のケイタを見つめた。
「平気です。優しいんですね。和希さんって‥。」
 少し疲れた顔をしながら、それでも甘く自分を見つめるケイタの視線が嬉しかった。
「優しいなんて‥少し無理させた気がするから‥。」
 ケイタの視線に照れながら答え、バスルームを出て服を着替えると、和希はケイタを抱き締め唇を塞いだ。
 離れたくない、けれど約束の時間が近づいていた。
「和希さん?‥あの‥ね?」
 いつまでも自分を抱き締めたまま、離そうとしない和希を見つめながら、ケイタは辛そうに言葉を吐いた。
「ん?」
「あのね、俺、凄く気持ち良かったです。和希さん優しくて‥俺凄く‥だから‥俺。」
「ね、次はいつ逢える?」
 良かった‥と言いながら、ケイタの顔は辛そうで、今にも泣きだしそうで、和希は焦りを感じながら早口でそう告げた。
「え?だ、駄目です。」
 予想していなかった答えに、和希は驚いて大声をあげた。
「どうして!
俺、ケイタに嫌な思いさせた?」
「そうじゃなくて‥。」 
「じゃあ何?俺はまた君に逢いたいよ。ケイタに逢いたい。ケイタは?俺と逢うのはもう嫌なの?どうしても嫌?」
「‥‥。」
 俯いて返事をしないケイタに、和希は苛立ち始めた。
「君の携帯なら、今すぐあの人と連絡がつくんだろ?電話して‥それも嫌?」
「嫌だなんて、お客さんがしたいと云うことに、そんなこと言う権利、俺にはありません。‥‥俺に拒否する権利はないですから‥。」
 悲しそうに唇を噛み俯くケイタを和希は冷ややかに見つめた。
 嫌だと言えない立場の人間が、駄目と口にする。その意味を和希は理解して震えた。
 つまり、本当の拒絶なのだ。駆け引き無しの拒絶。
 それを理解して、和希は自分の中に嫌な感情が芽生え始めた事に気が付いた。
 嫌がるなら、余計に欲しい。ケイタがどうしても。
「じゃあ電話して、早く。
 君は人気なんだろ?一刻も早く電話しないとね?」
 苛立ち紛れに嫌な言い方をしている‥と自分自身に呆れながら、蔑みながら和希はケイタに命令した。
「分かりました。」
 項垂れたケイタは、のろのろと電話を掛け始めた。
 それを見つめながら、和希は自分の愚かさを心の中で、舌打ちし罵っていた。
−−−俺は何をむきになっているんだ?ケイタにこんな悲しそうな顔をさせて、無理強いしてまで逢いたいのか?それでもどうしても欲しいのか?−−−
「もしもし、ケイタです。あの、お客さまが本庄さんと話がしたいと、仰ってるんですが‥。」
 震える声で電話の相手に伝え、相づちを何度か打った後、ケイタは俯いたまま和希に電話を差し出した。
「どうぞ。」
「もしもし、変わりました。」

※※※※※※※※※※

自分で書いててなんなのですが、こういう和希さんて‥ちょっと‥なんというか‥嫌かも‥。



                    ◆          ◇          ◆



2006/03/25(土) 約束〜もう一度あの場所で〜‥14

『ケイタは気に入らなかったのか?それでも金は返さないぜ?』
 しゃがれた耳障りな声が、和希の耳に響いた。
「いいや、気に入ったよ。とてもね、だからもっと逢いたいと思ってね。」
 俯くケイタを見つめながら、和希は言った。もう後には引けなかった。
 例えケイタが嫌がっても、それでも本庄の、雇い主の許可が出ればケイタはここに来るしかない。和希は必死だった。なりふり構う余裕など無かった。
『へえ?‥‥だがな?』
「言いたいことは分かっている。だから君が都合が良いと思う日に予定を入れてくれ、何日でもかまわない。毎日でも。」
 毎日、その言葉にケイタが顔を上げた。泣きそうな顔をしている。それが和希には辛かった。
『毎日?そいつは困る。前にも言ったがケイタは人気なんでね。あんただけがケイタの客じゃない。そいつは我慢してもらわないと。』
「だから、言ってるだろう?君の都合が良い日で構わないと。」 
 イライラと言いながら、和希は煙草に火をつけた。
『ふうん?随分とまあ、心酔したもんだ。ケイタの具合はそんなに良かったんで?へえ?』
「何が言いたい?本庄!」
 和希の声にケイタがビクリと震えた。
『最初はただの興味。だが一度抱いてみると、虜になる。ケイタはどうもそうらしい。くくっ。
あんたもどうもその様だ。一言注意してやろうか?ケイタはねえ。とんでもねえ魔物だぜ。あんたいずれ身を滅ぼすよ。』
「どういう意味だ。」
『なにも?言葉通りって奴さ。
 狂うんだとよ。
 手に入れたくてどうしようもなくなるんだとさ、欲しくて欲しくてたまらねえんだとさ。いい大人がまったく良い様さ。あんな餓鬼のどこがいい‥おっと失礼。大切なお客様に聞かせる話じゃねえ。』
「君は何が言いたい?俺を怒らせたいのか?」
 和希は苛立ち、その声は自然に大きくになる。その様子に本庄は笑った。
『くっくっく。恐いねえ?恐い恐い。そんなに大声を出したら、可愛いケイタが怯えるだろう?あいつは怖がりの泣き虫でね?すぐに怯えてべそをかく。』
「‥。」
『お客さんが気に入ったから忠告した迄のこと、そう目くじら立てる話でもねえだろ?あんただってそうなんだろ?訳も分からずケイタが欲しい。毎日でも逢いたい。そうだろ?まあ、失礼をした詫び替わりに、ケイタを取り敢えず2回貸し出そうか。2時間30万延長は無し。金は前と同じく前金で振込んでくれ。日にちは一週間後とさらにその一週間後の今日と同じ時間。どうだ?』
「わかった。それでいい。」
『OK。あぁ、それと、その他に300万振込んでくれ。』
「は?それは?」
『そうさな‥明日、御苑のボーヤの家に行けば分かるさ、話は通しておく。』
「分かった。明日何時に行けばいい?」
 もう来るな、丹羽にそう言われたのに、和希は躊躇わず答えた。
『入金を確認したらホテルに電話を入れる。それでいいな?』
「わかった。」
『あんたがもの分かりの良い人間で助かるよ。くくっ。じゃあケイタを出してくれ。』 
「あぁ、ケイタ。」
 名前を呼び、携帯電話を返す。
「はい、ケイタです。えっ!!‥そ、そんなことはありません!!俺っ。‥え?そんな‥‥はい。えっ?分かりました。30分後‥はい。」
 電話をしている間、ケイタはずっと震えていた。震えて、青ざめて、何かに耐えるように‥ただ必死に頷き返事をしている様に、和希には見えた。
「はい、では後で‥。」
 そう言った後、ケイタは電話を切り、ポケットに携帯電話を落とすとふらりと立ち上がった。
「ケイタ?あのね、さっきはキツイ事を言って‥あの?」
 さっきの話の言い訳をしようと和希はケイタに話し掛けた。
 先刻和希は、苛立ってケイタにキツクあたった。命令して電話を掛けさせ、無理矢理に約束を本庄に取り付けたのだ。ケイタはそれを望んでいないのに。
「さっきのは、あのね‥?」
 言い訳の言葉を探す。だけどなんて言ったらいいのか、和希は分からなかった。謝ることになれていなかったから、『さっきはごめんね。君に悲しい思いをさせたかったんじゃないんだ。』そんな簡単な言葉すら、和希は思いつかなかったのだ。
「いいんです。あの‥帰ります。」
 視線を合わさずケイタは言った。
「ケイタ?」
「失礼します!!」
 青ざめた顔でそう言うと、ケイタは部屋を飛び出していった。
「ケイタ。」
 乱暴に閉められたドアを和希はただ見つめていた。
 さっきまでの幸せな気持ちなど、もうどこにもありはしなかった。


6、タイムリミット


「はぁ‥はぁっあと28分。」
 人気の無い夜の街をケイタは走っていた。
 西新宿にあるホテルから新宿駅まで普通に歩いて10分程、そこから御苑近くにある家までは20分弱、走れば30分以内で家には十分着く。だが‥。
 他人を受け入れたばかりの体は、重く、痛みさえ感じてしまう。本当なら普通に歩くのもつらいのに、走るなど無謀とも云える行為だった。
「あっ!!」
 ふらついて歩道の段差に何度もつまずいた。5センチ程の段差、それに足をとられ転ぶ。
「痛いっ‥!!」
 転んだ拍子に両手のひらを擦り剥きながら、歯を食い縛り立ち上がる。弱音を吐いている暇は今のケイタには無かった。
『ケイタ?お前最近俺の云うこときかなくなったよな?』
 和希の部屋での本庄との電話。和希となにやら交渉をした後、本庄は不機嫌極まりない声でケイタを脅したのだ。
『もうあの苦しみを忘れたらしいな?ケイタ‥そろそろ思い出してみるか?‥ん?どうだ?』
 本庄の声にケイタは泣くのを必死に堪えた。
『そろそろ教育のやり直しの時期かもなあ?そう思わないか?ケイタ。』
 本庄の言葉にケイタは気が遠くなりそうだった。



                    ◆         ◇          ◆



2006/03/26(日) 約束〜もう一度あの場所で〜‥15

『躾しなおしか?あの恐怖をもう一度味わえばどうだ?
 たっぷりと仕置きをして、その物覚えの悪い頭に行儀を教え込んだら、少しは素直ないい子になるんじゃないか?ん?どうなんだっ?なるよなぁっ!ケイタよぉ。
 くくくっ。ケイタ、お前は何が好きなんだったかなあ?
 なぁんにも見えねぇ、自分の指先も見えやしねえ暗闇の中で、拘束されたまま延々とヤラレルのがいいのか?それとも注射か?ん?それぐらいは選ばせてやってもいいんだぜ?』
 本庄の言葉にケイタは必死で耐えた。ここで恐怖に負けたら、取り乱して騒いだら、ここぞとばかりに本庄に責められてしまう。
『‥‥でも、お前がいい子ならそんな事はしねえよ。俺の言う通りに従う人形にはなぁんにもしねえ。
 お前はどうなんだろうなあ?従順な人形かテストしようか?くくくっ。今から30分後、家に電話する。お前の保護者殿に用事があるからな。その時にそこにお前がいなければ、テストは終わりだ。いいな?』
 ケイタの怯えに気付いたのか、本庄は満足気に笑いながらケイタを脅した。
『テストがクリア出来ねえときは、どうなるか‥わかるよなぁ?ケイタ。くっくっくっ。楽しみにしてるぜ?』
 その言葉にケイタは頷くしか無かった。
 そして、ケイタは走りだしたのだ。夜の街を。
 擦り剥いた両手が痛くて、疲労しすぎた体が痛くて、走るたびに体中が悲鳴をあげていた。恐怖で気が遠くなりそうだった。それでもケイタは懸命に走った。
「間に合わない‥もっと急がなきゃ‥間に合わない。」
 心は焦るのに、なのに足が思うように動かない。よろよろとした足取りのまま、それでも一秒でも早く、一歩でも先に行かなければ‥と気持ちだけが急いていた。
「中嶋さん‥王様。」
 泣いちゃいけない、泣いたら前に進めなくなる。泣いちゃいけない。自分に言い聞かせながら走る。
 人気のない道。
 細い路地を抜け、甲州街道へと出てもそれは変わらなかった。真夜中、歌舞伎町に面した東口側と違い、西口は駅の近くにでもいかなければ人通りなどほとんど無い。
「もうすぐ駅だ。」
 あと2ブロック‥いやもう少し先かもしれない。駅に近付き、南口のゆるやかな坂を下り、それから15分以上は走らなければならない。
「走らなきゃ、早く‥走らなきゃ‥。」
 ケイタの足音だけが響く。ペタペタ‥ペタペタ‥今にも止まりそうな足音だけが響く。
 ペタペタ‥ペタ‥ペタ‥小さな、今にも転びそうな頼りない足音が響く。
「走らなきゃ‥はし‥あっ!」
 ようやく辿り着いた駅近くの交差点を、赤信号を無視して渡りきった後、ケイタはまた段差でつまづいて転んでしまった。
「痛っ。」
 転んで、また両手を擦り剥いて、そしてもう立ち上がれなかった。
 体が痛くて、擦り剥いた手も痛くて、もう走れそうになかった。
「中嶋さん‥王様。」
 涙でケイタの視界が歪んだ。今日はなんて日なんだろう。辛くて悲しくてたまらなかった。
「これは罰なんだ。きっと。」
 ケイタはもう立ち上がる気力さえ残っていなかった。
「罰なんだ‥俺があの人にあんな顔させたから‥。」
 とうとう涙が溢れてきてしまった。
「泣いたら駄目だよな。心配かけちゃうよ。それに‥泣いたら走れないよ。」
 ゴシゴシと涙を拭いながら、自分に言い聞かせる。
 けれど体は動かない。もう走っても無駄なのだ、どうせ間に合わない、もう無理なのだ。その思いが動きを封じていた。
「罰なんだ、折角逢えたのに、もう一度逢えたのに。」
 ケイタがもう一度逢いたい、そう思っていた人。ほんのちょっと話をしただけの人なのに、なのにどうしても忘れられなかった優しい人。その人はケイタを見て「逢いたかった」と言って抱き締めてくれたのに、なのにケイタは何も言えなかった。「俺もです。俺も逢いたかったんです。」本当はそう言いたかったのに、なにも言うことが出来ず、それどころか逆に怒らせてしまったのだ。
「悲しそうな顔だった‥凄く怒ってた‥‥。」
 謝らなきゃ、そう思っていたのに、本庄の言葉に動揺して、ケイタはそのまま部屋を飛び出してしまったのだ。和希を怒らせたまま。きっと誤解しただろう。ケイタの事を誤解して、悲しんでいるだろう。それを思うと悲しくてたまらなかった。
「俺、言えばよかったちゃんと‥。莫迦だ‥俺。」
 莫迦だ‥呟きながら、ケイタはふらりと立ち上がった。
「謝らなきゃ。ちゃんと、だから‥走らなきゃ。」
 本庄の出した条件をクリアできなければ、きっとケイタは本庄に拘束され、『再教育』の名のもとに凌辱され痛め付けられる。何日も何日も。以前そうだったように、突然中嶋達から引き離され『教育』されるのだ。あの時は運良く中嶋が助けてくれた。だけど‥
「走らなきゃ‥間に合わなきゃ、絶対に。じゃなきゃ逢えなくなる。中嶋さんにも、王様にも、あの人にも‥」
 同じ目に二度と合いたくなかった。ケイタが本庄に捕まっても、中嶋が救ってくれるかもしれない。中嶋はケイタを守ると誓ってくれたのだ、だからもしそうなったら、本庄から自分を助け出してくれるかもしれない‥けれど、あの『教育』を受けて、正気でいられる自信がケイタには無かった。
 肉体的な痛みが、延々と繰り返すのだ。羞恥心が恐怖に変化し、痛みは絶望へと変わる。泣き叫んでも無駄なのに、涙だけが流れる。それが本庄の『教育』だった。
「走らなきゃ、和希さんにもう一度逢うために。」
 よろよろと、ケイタは再び走りはじめた。



                    ◆         ◇          ◆



2006/03/27(月) 約束〜もう一度あの場所で〜‥16

「急がなきゃ‥。」
 よろよろと、今にも倒れそうになりながら、ケイタは走った。
 涙が流れて、擦り剥いた両手には血が滲んでいた、それでも構わずケイタは足を動かした。
 前へ、一歩でも前へ。終電が終わって人気の無くなった駅の前を通り、緩やかな坂を下る。パチンコ屋のネオンが、涙で滲んでやけに綺麗に見えた。
「あと半分。‥あと15分。」
 全力で走っても間に合わないかもしれない。もう無理なのかもしれない。恐怖に負けそうになりながら、それでも前に進んだ。途中で投げ出すことだけは、嫌だった。
「負けない‥。」
 恐くて恐くて堪らなかった。本庄がすぐ近くで笑って見ている気がした。
 本庄の声が聞こえる気がした。
「中嶋さん‥王様‥。」
 ポケットの中のお守りを取出し、右手に握り締める。
「守ってくれる。きっと、辿り着ける。」
 涙を擦りながら、ケイタは走り続けた。そうしなければ、恐怖に負けてしまいそうだった。
「ケイタやないか?」
「俊介!!なんでここに?」
 ふいに名前を呼ばれ振り返ると、人懐こい笑顔を浮かべた俊介がいた。
「俺はこれから仕事や、店に行く途中なんや。それよりなに泣いとるん?中嶋センセに怒られたんか?あのセンセ恐いからな−。」
 呑気に笑う俊介に、ケイタはつられて笑いながら、「違うよ‥」と首を振った。
「俺、急いで帰らないといけないんだ。凄く凄く急ぐんだ。」
「ふうん?そんなら俺が乗せてったるわ。」
「え?」
「ケイタ車は駄目や言うとったけど、こいつなら平気やないか?自転車飛ばすの気持ちええし。こいつ、形ははちょっとダサいけどな。丈夫やし、結構ちゃんと走るんやで。」
「いいの?」
 俊介の言葉は嬉しいけれど、良いのだろうか?ケイタは戸惑いながら自転車のハンドルに触れた。
「この前俺のこと助けてくれた礼や。いいからはよ乗り。」
 俊介とケイタはついこの間知り合ったばかりだった。
 新聞の勧誘に来た俊介を、中嶋が追い返そうとしていたのを見付け、ケイタが「一ヵ月だけでも‥」と泣き付いたのがきっかけだった。
「ありがとう。」
 涙を拭い、自転車の荷台に座るとケイタは俊介の腰に腕をまわした。
「よ−し!いっくで−!!」
 勢い良く叫ぶと、俊介は自転車のペダルをぐんぐん漕いで、猛スピードでネオン街を通り抜けた。
「うわっ!」
「気持ちええやろ?もっともっと飛ばすで−!」
 高らかに笑いながら、俊介はさらにスピードをあげていく。
「俊介!恐いっ!」
「平気や。急ぐんやろ?これくらい我慢しぃ!」
「でも−!」
 慣れないスピードにケイタはぎゅっと目を瞑り耐えた。
「もうすぐや。時間‥間に合うな?よかった。」
「え?」
「‥‥な、なんでも無い!もっと飛ばすっ!」
 なんで今『間に合う』なんて言ったんだろう?急いでるとしか言っていないのに‥不思議に思いながら、ケイタは頷いた。
「うん。ありがと。俊介。」
 
××××××
  
「よ−し!着いた。」
 キイィッ!と耳障りな音をたて、自転車を止めると、俊介はトントンとケイタの手の甲を叩いた。
「もう手離してええよ?ケイタ。」
「もう、着いたの?うわっ!」
 自転車から降りかけて、ケイタはグラリと俊介の腕の中に倒れこんだ。
「おいっ!大丈夫か?」
「うん。ちょっと足に力が入らなくて、もう平気。」
「上まで送ろか?」
「大丈夫。ありがと‥あ、あと5分。凄い間に合った。」
「‥よかったな。なあ?ケイタ?」
「ん?なに?俊介。」
「いや、やっぱええ。またな。」
 ぐしゃぐしゃとケイタの髪を撫でながら、困ったように笑うのを、ケイタはただ見つめていた。
「うん、ありがと。助かった。」
「礼はいいって。それより急がな、間に合わなくなるで。」
「え?あ、うん。それじゃね。」
 慌ててビルの中に入り、エレベータに乗り込むとボタンを押して息を深くつく。
「あと3分。ギリギリだ。」
 俊介に会わなければ、間に合わなかった。そう思ったとたん手足がガクガクと震えだした。
「大丈夫、もう着いた。もう平気。大丈夫。」
 自分に言い聞かせるように呟きながら、エレベータ−を降りて、震える手でドアを開け、中に入る。その瞬間電話のベルが鳴った。
「な、中嶋さん!その‥その電話!」
「ケイタ?どうした?慌てて‥。哲、電話出てくれ。」
「あ?‥もしもし?‥あぁあんたか。ケイタ?ああいるよ。」
「間に合った‥。」
 へなへなとケイタは玄関に座り込んで、泣きだした。
「ケイタ?どうした。」
「あの‥なんでも‥へへ。」
 両手で涙を擦り笑う。
 自分を抱き上げる中嶋の腕の暖かさが、嬉しかった。
「この怪我、どうした?」
「ちょっと転んだだけです。」
「ちょっと?ったく。」
「‥中嶋さん、あの‥電話。」
 丹羽が眉間に皺を寄せ話していた。そしてため息をつくとケイタを呼んだ。
「ケイタ。」
「は、はい。」
「かわれってさ。」
 丹羽の言葉に、ゴクリと唾を飲み込み、ケイタは受話器を耳にあてた。
「はい。」
『残念だったなぁ。間に合っちまったのか。』
 しゃがれた声がケイタを責めていた。
「あの、俺。」
 何か言わなくては、本庄を怒らせてはいけない。
 そう思うのに、言葉が出なかった。心臓の動悸が激しくなり、口の中が乾いて息をするのが苦しかった。 
『まあいい、今回は許してやろう。運のいい奴だな。だが、次も上手く行くとは限らねえんだぜ?よ−く覚えておけよ?ケイタ。
 お前が少しでも俺に逆らうようなら‥容赦しねえ。
 俺は、お前が明日死んだって構わねえんだからよぉっ!次を楽しみにしてるぜ?』
 ガチャン!叩きつけるように本庄が電話を切ると、やっとケイタは息をつくことが出来た。けれど、
「っ!‥。」
 ドクンドクン‥ドクンドクン‥動悸がどんどん激しくなる。心臓の音が自分の体の外にまで聞こえそうな大きな音がする。そんな感覚に襲われて、ケイタは中嶋の服をぎゅっと掴んだ。
「ケイタ?どうした?苦しいのか?」



                    ◆         ◇          ◆



2006/03/28(火) 約束〜もう一度あの場所で〜‥17

「ケイタ?どうした?怪我が痛むのか?」
 丹羽が顔を覗き込む。
「だいじ‥っ!」
 頷いて笑おうとして、でもそれすら出来ない事にケイタは気が付いた。
「っ‥!!。」
 上手く笑うことすら出来なくて、なのに涙だけが後から後から流れてきて、ケイタはどうしたらいいのか分からなくなっていた。
 不安。自分はどうしてしまったのだろう。こんな風になるのは始めてだった。
 心臓の鼓動が激しくなる。ドキドキドキドキと早鐘を打つように、脈打ちだしてきて苦しくてたまらない。
「ケイタ?どうした?」
 中嶋の視線を感じて落ち着こうと息を吐く。落ち着いて、深呼吸をして動悸を静めなければ‥なのにケイタが焦れば焦るほど、鼓動が激しくなり、息が苦しくなる。いくら深く呼吸しても、何度息を吸い込んでも空気が足りない気がして、ケイタは自分が溺れている様な錯覚に陥りパニックになった。
「な、なか‥はぁ‥はぁっ。」
 呼吸が出来ない。涙が止まらない。どうしても息を吸い込めない。
 どうやって呼吸したらいいのか、どのくらい息を吸い込んだら楽になれるのか、それすらケイタには分からなくなっていた。
「ケイタ?大丈夫か?‥ヒデ?ケイタどうしたんだよ。」
 丹羽の不審そうな声に、さらにケイタは焦りだす。
 返事をしなければ、大丈夫だと返事をしなければ‥。なのに息が苦しくて、何度もぱくぱくと口を開く。
 苦しいのに、鼓動だけがどんどんどんどん早くなる。トクトクトクトクと繰り返す心臓の音。助けて欲しいのに、苦しくてたまらないのに、声を出すことさえもう出来なくなっていた。
「まずいな‥。哲、ビニール袋持ってきてくれ。」
 ケイタを抱いたまま床に座り込んた中嶋は、ケイタの首筋に指先を当てながら、指示した。
「わかった。なんでもいいんだな?」
「ああ、急いで。」
 顔色が悪すぎた。全力疾走した後の様にゼイゼイと息を吐き、そして視線がキョロキョロと落ち着かない。中嶋は内心の焦りをケイタに悟られないように、いつもの口の端をあげただけの笑いを浮かべ、ケイタを見つめた。
「これでいいか?」
「ああ、ケイタ、ケイタ。俺が誰か分かるな?」
 中嶋の声にケイタが何度も頷く。
「よし、いい子だ。大丈夫、今すぐ楽になるからな。」
「な‥。ひっ。」
 ケイタは中嶋の声に頷くのが精一杯だった。
「ほら、これを持って息をして‥いいか?ゆっくり息を吐いて‥今度はゆっくり吸うんだ。分かるな?」
 ケイタの両手にビニール袋を握らせ、唇に当てさせる。ゆっくりと袋が膨らみ、しぼむ。
「ヒデ?」
「しっ、ちょっとの間しゃべらないでいてくれ‥いいな?」
 小声で丹羽にそう言うと、中嶋はケイタの心臓の辺りに手を当てながら、ケイタの耳に囁いた。
「大丈夫だ。もう落ち着いてきた。‥ ゆっくりと息を吐いて、ゆっくり、ゆっくり、焦ることはない。そうだ、ケイタいい子だな。そうだ‥いいぞ。大丈夫、落ち着いてきてる。
 分かるな?ケイタ、心臓の音が‥トクントクンと脈打ってる。ほうらもう大丈夫だ。大丈夫だ。」
 ケイタを見つめながら、中嶋は囁き続けた。
「すぅっ−。ふぅぅっ。すぅっー。ふぅぅっ。」
 ケイタは中嶋の声に導かれるまま、ビニール袋の中に息を吐き、吸った。
「よぅし‥そのまま‥もう一度‥吸って‥そうだ‥ゆっくり吐いて‥。ほうら、ビニールが膨らんだ‥ちゃんと呼吸出来ている。分かるな?ケイタ。
 お前はちゃんと呼吸している。だから大丈夫‥もう大丈夫だ‥。さ、もう一度‥。」
「‥‥。」
 繰り返し息を吐き、吸いながら、やがてケイタはぐったりと中嶋の腕の中で脱力した。
「もう大丈夫だ。ケイタよく頑張ったな。偉いぞ。」
 優しく声を掛けながら、背中を撫でる。
「ケイタ?」
「哲。ミルクを温めて来てくれ、甘くして。」
「わかった。ケイタ待ってろよ?」
「なか‥じまさん?」
「苦しいところは?心臓は‥痛くないな?」
「ありません。俺、今‥。」
 不安気な眼差しのケイタの背中をゆっくりと撫でながら、中嶋は表情を変えず説明した。
「大丈夫。少し疲れが出ただけだ。体が疲れすぎていたんだ。だがもう大丈夫だ。もう落ち着いたろう?苦しくない‥だろう?」
「俺変になっちゃったの?」
「変‥?哲の顔のほうがよっぽど変だがな?お前はちっとも変じゃない。安心しろ。」
「ひっでえなぁ。変なのはヒデの方だろ?下で一体どんな診察してるんだかね?お前が白衣着てても、変なプレイにしか見えねーよ。な?ケイタ。
 ほ−ら、ミルクだぞ。熱いから気を付けろよ?」
 丹羽が茶化しながら、ケイタにマグカップを手渡すと、甘い香が立ち上ってきた。
「なんだ?ずいぶん甘い匂いだな?」
「メープルシロップをたーっぷりとな。」
「メープルシロップ?そんなものいつ買ったんだ?」
「今日だよ。な、ケイタ。ヒデにホットケーキ作らせるんだろ?熱々なところにバターを乗せてシロップをたっぷりかけて食べるんだよな?」
「はい。海野先生がそうするとすっごく美味しいんだよって。」
 ミルクをゆっくりと飲みながら、ケイタは頷いた。
 さっきまで苦しかったのが嘘のように、呼吸が楽になっていた。
「ああ、あの人は甘いもの好きだからなぁ。」
 心底嫌そうに中嶋が言うのをケイタは不思議に思いながら、甘いミルクを飲んだ。
 甘い甘いミルク。そう言えば、あの人の前でも甘いミルクを飲んだんだ。あの時のあの人は凄く優しかったのに、なのに今日は‥。−−−−−ふいにその事を思い出し、ケイタはまた泣きたくなった。
「ケイタ?」

※※※※※※※※※※

桜が綺麗だよー。と妹からメールが届きました。
東京に帰る頃には確実に散ってるのね‥淋しい!!



                    ◆         ◇          ◆



2006/03/29(水) 約束〜もう一度あの場所で〜‥18

 どうしてこんなに気になるのだろう?どうしてこんなに悲しいんだろう?−−−名前を呼ばれた事にも気が付かぬまま、ケイタはぼんやりと考えていた。
「ケイタ?」
「あ。はい。」
 気が付くと、二人が顔を覗き込んでいた。
「どうした?気分でも‥悪いのか?」
「ううん。」
 優しい声に、慌ててケイタは首を振る。これ以上心配を掛けたくは無かった。
「じゃあ、怪我の手当てをしよう。‥哲、救急箱取ってくれ。」
「OK、ほいっと。それにしても派手に転んだなあ。」
 中嶋に救急箱を手渡しながら、丹羽がケイタの手元を覗き込む。何度も転んで出来た傷からは、血がにじみ出ていた。
「え?あ、はい。へへへ。」
「‥少ししみるぞ?」
 言いながら中嶋が、消毒液を浸した脱脂綿で傷口を拭う。
「いっ!!痛いです−。いったぁ−い!」
 ピリピリとした痛みが走り、ケイタは悲鳴をあげた。
「しみると言っただろう?‥大げさだぞ?」
 中嶋は呆れたように言いながら、それでも力を加減して、優しく拭いてくれるから、ケイタは嬉しくなって「だって痛いんですもん。」とつい甘えてしまう。
「まだ痛いか?もうすぐ終わるからな、ケイタ我慢しろよ?すぐだからな?」
 丹羽がしかめっ面をしながら、ケイタの頭を撫でた。
「はぁい。」
 頷きながら、丹羽の顔を見て、ケイタはつい笑ってしまった。
 治療されているケイタより、丹羽の方が痛そうな顔をしていた。丹羽は、自分はどんなに大きな怪我をしても、ケロリと笑ってるのに、人の怪我は苦手なのだ。他人が苦しそうな顔をしてるのは、自分のそれより痛いんだよ‥と以前こっそり話してくれたのをケイタは思い出していた。
「哲、大げさだ。こんなのは傷のうちに入らん。」
「でもよぉ。ケイタは痛そうじゃねえか。もっと優しくやってやれよ。お前医者だろう?」
「ったく。‥まだ痛いか?もうすぐ終わるからな。我慢出来るな?」
「はい。」
 頷くと中嶋は、ケイタの頭を撫でた後、ガーゼを当て、「ちょっと大げさだがな‥」と言いながら、包帯をくるくると巻き付けた。
「これじゃ、なにも出来ないですよ。髪が洗えません−!」
「そんなもの、いくらだって洗ってやる。文句言うな。」
「じゃあ、優しく洗ってくださいね?中嶋さん。」
 言いながら、ケイタはまた泣きそうになっていた。
 どうも今日のケイタの涙腺は、かなり弱くなっているらしい。少しの事に動揺して泣きたくなる。切なさに耐え切れず、苦しくて、涙がにじんでくる。
 ここは安全な場所なのに、俺が唯一安心して眠れる場所なのに‥なのにどうして?−−−ケイタは涙を堪えようと、唇を噛み俯いた。
 中嶋の膝の上で、甘えるのは、とても安心できる行為だった。ケイタにとって、中嶋の膝は、腕の中はこの世の中で一番安心出来る場所だった。
 ここはなんて安らかな場所なんだ。さっき夜の街を一人走っていた時とは違う。優しく甘い時間だけがある。−−−それはケイタの疲れた心と体には、甘く優しい物だった。二人は決してケイタを傷つけたりはしない。ケイタを悲しませたり怯えさせたりはしない。
 だからケイタは、二人の傍でこうして甘えている時間が、一番好きだった。
 二人は、優しく頼りになる存在なのだ。だから、ここにいれば大丈夫。もう恐くない。ケイタが、心からそう思える場所だった。
 なのに、今日は駄目なのだ。不安になってしまう。。本庄の声を思い出して、和希の不機嫌そうな顔を思い出して、不安になってしまう。
 不安、心がきゅっと締め付けられるような不安が、黒い影が心から消えず、ケイタは中嶋の手にそっと触れた。
「で?本庄には何を言われた?」
「え?」
 ケイタの心を見透かした様に、丹羽が問い掛ける。
「‥哲。」
「だって気になるだろ?な、どうしたんだ?」
 隠しておくことは、ケイタには出来なかった。心配を掛けるのは心苦しかったが、嘘を言っても二人にはすぐに分かってしまう。
「‥あのね、俺が最近言うこときかないから、再教育しようか?って‥。」
「え。再教育?」
「はい。部屋から出るとき電話で言われたんです。
 30分後にここに電話するから、その時までに家に着いてなかったらそうするって。俺、だから必死に走って帰ってきたんです。」
 話をするだけで、本庄の声を思い出すだけで、ケイタの体は震えだしてしまう。
 恐かった。間に合わなければ本庄は容赦なくケイタを連れ去っただろう。そして、当然のように『教育』という名の拷問が始まるのだ。
 本庄は戯れに脅した訳ではない。本当にそうするつもりで、ケイタに宣言しただけなのだ。
 泣いて慈悲を縋っても、聞いてくれる相手などではないのは、ケイタ自身が一番よく分かっていた。
 だから恐いのだ。
「俺がどうなろうと構わない、死んでもいいって‥。」
 言いながら、どんどん体が震えてくる。『死んでもいい』それは比喩ではなく、本庄の本心なのだ。自分の気に入らない相手など、言うことをきかない人形など、いつ死んでも構わないのだ。それがケイタには恐かった。
 本庄が本気になれば、ケイタを、地面を歩く蟻を殺すよりも簡単に殺すだろう。なんの躊躇も無く。
 だから恐かった。本庄には決して逆らってはいけないのだ。決して。
「ケイタ?」
 ケイタは無意識に自分で自分の体を抱くようにしながら、その恐怖に耐えようとしていた。
「恐かったです。思い出しただけで体が震えてしまう。」
「大丈夫だ。今ここに俺たちがいるだろう?」
「でも。」
 縋るようにケイタは中嶋を見つめた。
「大丈夫だ。」
 言いながら、中嶋はケイタを抱き締め、背中を撫でた。
「それにしてもよく間に合ったな。全く電話しろよー。バイクで迎えに行くって。」
 
※※※※※※※※※※
中嶋さん別人の様に優しいですが‥こんな状態でも中啓ではありませんので。今回は和啓です。(と言いつつ、書いてる私が一番それを忘れてる感じ‥(;^_^A))





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いずみんから一言

24日が飛んでいるのは吐き気がしていたからだ。
とはいっても病気の所為ではなく、あの有名な(笑)「洗剤ごはん」と油ギトギトの
鶏の生揚げを口にしてしまったからだったりする。

「伊住様
笑い事じゃないです〜(でもかなり話としては笑えます、そしてまさか自分がそのご飯を
食べる日が来るとは思いませんでした。)洗剤はね、他の人の米の研ぎ汁が白かった
ので(量が多いので、炊飯器を5つ使って炊いてるのです)、洗剤が入ってるのだと思った
らしいです。新人さん達、その他にも驚くことを当然の顔してくれてるので恐いです」

大笑いをした拍手を送ったら、26日付でこんな返信を頂いた。


「どれもこれも全部わたしのもちネタにさせて頂きますね。
だからこれを誰かに話すときには、横にいて一緒に笑ってください」

これを書いたのはみのりさまの服喪期間中だった。
情けなくも私は、まだ泣かずにこの話をできそうもない。

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