約束〜もう一度あの場所で〜(37〜42)



2006/04/17(月) 約束〜もう一度あの場所で〜‥37

 和希の優しい瞳を見ていると、心が騒つくのだ。なにか‥サワサワと落ち着かなくなってくる、こんな気持ちは初めてで、どうにも居心地が悪いのだった。
「見られるなんてなんでもないよ、だって服だって着てるし、恥ずかしい格好させられてる訳でもないし。」
 なのに和希の視線は恥ずかしいのだ。目が合うだけでどうしていいのかわからなくなる。
 男娼という仕事柄、恥ずかしい行為には慣れていた。
 抱かれる事は好きな事ではなかった。
 毎晩毎晩違う男に抱かれるというのは異常な事だとも思う。それが本庄から離れ、自由に生きる為の条件だから仕方なくしているだけだった。
 男たちはケイタを見る。体の下に組み敷いて、無抵抗で従順なケイタを思うままに弄びながら、見つめる。
 瞳の中に映るケイタは、淫靡な妖だった。
 そこにケイタの感情は無かった。客の部屋のドアを開けた瞬間、ケイタはただの人形になる。
 客の思うままの人形。
 平気だ、俺は大丈夫。なにをされても平気。−−−−無意識に言い聞かせながら服を脱ぐ。
 何も恐くない、何も辛くない。俺は平気−−−裸にされ、弄ばれる。客の好みの、痴態を演じる。
 心の中の目をぎゅっと瞑ればいいだけだった。
 客の好みのまま、いい子を演じていれば、中嶋と丹羽の待つ家に戻ることが出来る。
 二人はケイタを優しく抱いて眠らせてくれる。
 だから、平気だった。なにをされても、どんな恥ずかしい格好を見られても、平気だった。
 だから、和希の視線に戸惑う自分が不思議だった。
 和希は客の一人に過ぎないというのに、和希の視線に照れて、和希の事を考えてしまう自分が不思議だった。
「どうしてなんだろう。」
 クロの背中を撫で呟く。
 ミルクティーをコクリ、コクリと飲みながら、ケイタは空を見上げた。
「少し寒くなってきたね。クロ、マロン、下に戻ろう。」
 カップの中身を飲み干し、トレイを持って立ち上がる。
 ゆっくりと歩くケイタの後を、クロとマロンはおとなしくついて歩いた。
 もうすぐ和希が来る時間だった。

××××××

「和希さん遅いですね。」
 中嶋の身体にもたれながら、ケイタは時計を見つめていた。
「今日は来ないのかもしれないぞ?」
 雑誌を捲りながら、中嶋はちらりと時計に視線を走らせた。3時15分いつもなら、とっくに部屋に来て、欝陶しい空気を部屋の中に撒き散らし、中嶋を苛立たせている時間だった。
「仕事でも入ったんだろ。」
「そうですよね、和希さんだってお仕事ありますよね。大人なんですもん。」
「大人ねえ。」
 良識ある大人の行動とは思えないが‥。声には出さずに口の中で呟くと、中嶋は、雑誌の記事を読む振りをしながら、丹羽の用事について考えていた。
 突然竜也からの呼び出しが来て、丹羽は渋々出掛けて行ったのだ。
 ケイタを一人には出来ないから、昼間に丹羽が出掛ける事は殆ど無かった。
 本庄の事での心配は、無くなってはいたけれど、ケイタの精神状態を考えると一人には出来なかった。
『ケイタのことで話があるんだってさ。』
 診察途中の中嶋に詫びながら、丹羽はそう言って出掛けて行った。
 簡単な話なら、竜也はメールか電話で済ませる、本庄に関係する事などの捜査報告もそれは同じだ。お互いに忙しく時間が合わないから、内容が込み入ったものでないかぎり、仕方なくそれで済ましているのだ。それを理解しているから、突然の呼び出しで中嶋の仕事を邪魔することになっても、丹羽は出掛けたのだ。
「中嶋さん?」
「なんだ。」
「今度クロを海野先生のところに連れていってもいいですか?」
 中嶋の目の前にクロを抱き上げ、ケイタが聞いた。
「どうして?」
「海野先生とトノサマに、クロが和希さんと喧嘩しないように説得してもらうんです。クロってばすぐ和希さんにフッー!!ってするんですよ。」
「クロがそうしたいんだから、させておけばいいだろう?」
 クロやマロンが和希を威嚇するのを、中嶋も丹羽も注意もせず見ているだけだった。
 中嶋は和希が嫌いだった。嫌いというより軽蔑していると言うほうが正しいのかもしれない。
 理想論を掲げ、中嶋達を巻き込んで大騒ぎした挙げ句、たった数年で飽きたおもちゃを捨てるように学園を去った事には、ただ呆れるだけだったが、ケイタの事でそれが軽蔑に変わった。
 性の好みは人それぞれだから、それについてはどうでも良かった。
 中嶋もある意味凄い性癖の持ち主ではあるから人の事は言える立場じゃない。
 例え、和希が怪しげな店の常連だったとしても、そんなものは、中嶋にとってどうでもいい事だった。
 生まれや育ちが良くたって、男なんて自分を含め、所詮そういう生き物だと納得している。それに学生時代散々遊んだ中嶋は、大抵の事では驚かないし、呆れもしない。
 だが、ケイタの事は別だった。
 ケイタを買って抱くだけならともかく、家にまで押し掛け、中嶋や丹羽の冷たい視線を物ともせず居座り続けるその精神が理解できなかった。
「だってぇ。お客さんにそんなことしちゃいけないでしょ?」
 拗ねたような甘えた声で、ケイタは中嶋を説得しようとしていた。
「確かに行儀は悪いが、クロは莫迦じゃないからな、していい相手かどうかは判断してると思うぞ。」
 実際クロもマロンも頭がいいのだ。だから、中嶋と丹羽が和希を歓迎していないのを察して、威嚇するのだ。
 飼い主が気に入らない相手を歓迎する莫迦では無いのだ。ケイタが幾ら言ったところで、中嶋達が注意しないかぎりそのまま変わらない。
「なあ、クロ。お前にだって言い分はあるだろ?」
 クロの小さい頭を撫でながら、中嶋は口の端だけを上げ笑う。
 クロやマロンにしてみれば、飼い主がよく思っていない相手は敵なのだ、だからケイタを敵から守ろうとして威嚇するのだ。



                    ◆          ◇          ◆



2006/04/18(火) 約束〜もう一度あの場所で〜‥38

「なんでクロを庇うんですか!も−!!」
 けれどそれをケイタに話すわけにもいかず、中嶋はただ笑って小さな騎士の頭を撫でた。
「別に庇ってないだろう?クロは莫迦じゃないと言っているだけだ。」
 金色の瞳が細くなり、クロは中嶋の手に頭を擦り寄せる。
「莫迦じゃないかもしれないけど、クロ達に嫌われて和希さん可哀相です。
クロ昨日も和希さんの事引っ掻いたんですよ?」
 よくやった。とは言えず中嶋は苦笑いしてクロを膝に乗せた。
「ふうん?」
「ふうんじゃなくて、叱ってください。」
「下にくれば消毒くらいしてやるがな。クロ、爪は傷めなかったか?ん?」
 クロの前脚を指先で撫でながら、茶化す。
「中嶋さん!」
 ぷっと膨れて、ケイタは中嶋を睨む。
「マロンはマロンで、和希さんが俺の近くに座ろうとしたらソファーに飛び乗って邪魔するし。」
 してやったり、な顔をするマロンが目に浮かぶ。
 中嶋や丹羽の事は主人だと理解しているマロンだったが、ケイタの事はどうも自分の弟だと思っているようなところがある。
 ケイタが落ち込むと、顔を舐め回して慰め、どうしても中嶋達の時間の都合が合わず、ケイタを一人で留守番させなければならない時は、片時もケイタの傍を離れない。
「ソファーが好きなんだろう?」
「なんで王様と同じ事いうんですか。いつも怒るのに−!」
「丹羽もそう言ったのか?」
「はい。和希さんの前で、マロンが俺の膝に頭乗せて動かなくなっちゃって、俺すっごく困ったんですよ?なのに、『悪いな和希。こいつソファーが好きでさ。』なんて言うんですよ。」
「ククク。そうか。」
 そりゃそう言うしかないだろう。丹羽の心情を察して中嶋は笑った。
「‥‥中嶋さん和希さんの事嫌いなんですか?」
「どうしてそう思う?」
「だって、和希さんが嫌な思いしてるのに‥笑ってるから。嫌い?」
「さあな。それより、クロ達が嫌な思いをするのはいいのか?ん?ケイタ。」
 にやにやと笑いながら、中嶋は意地の悪い質問を返す。
「そりゃ良くないですけど‥理由も無しに嫌いなんて‥。クロなんで嫌いなの?ねえ。和希さんの事嫌い?」
 中嶋に喉元を撫でられ、気持ち良さそうに目を細めていたクロは、和希の名前に、ぷいっとそっぽを向いた。
「こいつらは本能で敵味方を判断するからな、理由なんてないんだよ。
良いか悪いかは別にして、本能なんだから仕方ないだろう?」
 タイミングの良すぎるクロの反応を笑いながら、中嶋は2匹の行動を正当化していく。
「でもぉ。」
「‥無理強いは良くないぞ。」
「そうですね‥。」
 渋々頷いて、ケイタは再び時計を見つめた。
「和希さん、今日は来ないのかな?」
 ケイタの声が、ほんの少しだけ淋しそうだと中嶋は思った。


11、想いはめぐる


 中嶋がケイタを伴い寝室に向かうのを見送ると、丹羽は一人、赤蝋で塞がれたバーボンの封を開けた。
 中嶋の視線は気になったが、気付かぬ振りでグラスに注ぐと一気に飲み干す。
 何度かそれを繰り返すうち、開けたばかりのボトルは軽くなり、そして丹羽の思考に霞がかかり始める。
「どうしたらいいんだろうなあ。」
 寝室の声は、丹羽のいるこの部屋までは届かない。
 ケイタの仕事の無い夜、その細い体を抱く事は、二人に課せられた義務の様なものだった。
 丹羽はケイタを抱いて、快楽を得たことは無かった。それは快楽を得る為の行為では無かった。
 ケイタを抱くたびに痛ましい過去が、丹羽の頭の中で再生される。
 本庄に凌辱され続け、助けを呼ぶ事さえ諦めてしまったケイタ。恐怖を植え付けられ、苦痛を与え続けられた細い体。白い体につけられた無数の傷。
 ケイタを抱くたびに、丹羽はその事を思い出していた。
 ケイタを助けることが出来なかった自分達の罪を、ケイタを抱くたびに再認識する行為は、自虐的で意味が無いと丹羽は思っていた。
 それでも繰り返しケイタを抱いた。それぞれが別々に抱くことも、二人で抱くこともあった。
 快楽を得るためでも、愛情を確認するためでも無いそれは、苦行のようだと丹羽は感じていた。
 ケイタが疲れて眠りにつくまで繰り返される行為、それを望むのは、ケイタの心ではなく体だった。
 ケイタは二人に抱かれることでやっと安らぎを得る。欲に溺れたくてしている行為では無かった。自分が安全な場所に居るのだと、二人が傍に居るのだと、ケイタが理解するためのものだった。
 赤ん坊が母親の乳房に触れ安らぎを感じるのと同じ、ケイタは二人に抱かれることでそれを得るのだ。
「誰も幸せになれねえ‥か。」
 溶けかけた氷を指先でくるりと掻き混ぜると、ごくりと飲み干す。皮張りのソファーに長く体を伸ばし、クッションを背もたれにしながら、ごくりごくりと琥珀色の液体を干していく。
 義務だと思うことでやっと丹羽はケイタを抱くことが出来た。そう思わなければ、欲望のままケイタを求めてしまいそうで、恐かった。

『呪いだよ。俺がケイタに掛けた呪いさ。
面白いだろう?ケイタもおまえ達も幸せになんかなれねえ。ケイタに関わる人間は全員地獄を生きる苦しみを味わう。
最高じゃねえか。そう思わねえか?』
 本庄の嘲笑う声が、頭の中にこだまする。
『呪いはとける事はねえよ。いつまでもいつまでも、ケイタは苦しみ続ける。永久にな!!』
 その言葉通り、ケイタの苦しみは癒される事が無かった。
 ずっと今もその苦しみは続いている。
「これも呪いの一つなのか?」
 竜也から預かった書類を、中嶋に渡すことが出来ぬまま、夜になってしまった。
 突然息子を呼び出した竜也は、仏頂面のまま紫煙を吐き出し、書類の束をテーブルに広げると低い声で話し始めたのだ。



                    ◆         ◇          ◆



2006/04/19(水) 約束〜もう一度あの場所で〜‥39

『楽しい話じゃねえ。いいな?』
 そう念を押し竜也は口を開いた。
 重苦しい空気が二人を包んでいた。

××××××

「‥あっ。」
 ケイタの細い体が中嶋の腕の中で震えた。
「な、中嶋さん‥」
 大きな瞳に涙を溜めて見つめる。震える腕を中嶋の首の後ろに回し、頬を擦り寄せ名前を呼ぶ。
「大丈夫だ。お前の中にいるのは俺だ。分かるだろう?」
 低くケイタの耳に囁きながら、中嶋はゆっくりと動いていく。
「分かります‥中嶋さん‥。」
 甘い息を吐きながら、ケイタは中嶋を見つめていた。そして存在を確かめる様に中嶋の頬に自分の頬を擦り寄せる。
「中嶋さん‥分かります‥俺の中に中嶋さんが‥熱い‥中嶋さん‥。」
「ケイタ。いい子だ‥大丈夫だ。」
「はい‥中嶋さん‥あっ。」
 優しく髪を撫でながら、ゆっくりと動いていく。ケイタの体に決して痛みを与えないように、ケイタを恐がらせない様に、ゆっくりと動き、低く低く囁く。
「いい子だケイタ。」
「中嶋さん‥中嶋さん‥あっぁぁ。」
 中嶋にしがみつき、ケイタは感じるままに声をあげる。
「俺のこと好き?中嶋さん‥中嶋さん‥‥っ‥。好き?」
 離される事を恐れる様に、ケイタは中嶋にしがみつき体を擦り寄せる。
 ぴたりと体を寄り添わせながら、中嶋はケイタの熱に合わせ動く。
「ククク。ケイタ?」
「‥はい。」
「何度も言わせるな。」
「だって‥。」
「嫌いなら傍に居ない。俺も哲も、嫌いならお前をこんなふうに抱いたりしない。傍に居るずっと。お前の傍にいる。」
 ういばむようなキスを繰り返しながら、中嶋はケイタを快楽へと導く。

 決して傷つけない。守ってみせる。必ず。

 中嶋はその想いを言葉に出さずケイタに伝える。
 ケイタの心の安寧の為の行為。激しくは無い。静かな、けれど確かな熱が互いを包み込む。

 それは祈りにも似ている。
 ケイタの幸せを、安らぎを願う行為。
 快楽を感じる為でなく、近くに居るのだと伝えるための時間。

 決して傷つけない。苦しめない。優しく慈しむ存在になる。その為に俺達は生きる。

 細い体を抱くたびに、その想いを強くする。
 中嶋の、口には出さないその思いを、ケイタは肌で感じる。
「傍にいる。ケイタ‥ずっと傍に‥。」
 中嶋の言葉にケイタは頷いて、そして果てた。

××××××

 中嶋に抱かれながら、ケイタは熱い湯の中で微睡んでいた。
「寝るな。溺れるぞ。」
 笑いを含んだ中嶋の声を遠くに聞きながら、ケイタは中嶋の背中に腕を伸ばす。
 抱いている時もその後も、中嶋の声は優しくケイタの耳に届く。
「ククク。置いていくわけないだろ?安心して寝ていろ。」
 低く囁く声。
 中嶋のその声に頷きながら、ケイタはしがみつく腕に力を入れる。
「苦しいぞ。ほうら、離せ。」
「や。」
 中嶋に抱かれてケイタの体は疲れていた。どんなに優しく抱かれても、体の疲れは残る。
 幸福感と共に、疲れが残る。
 抱かれている間、ケイタは幸福に包まれる。客に抱かれる時との大きな違い。
 中嶋と丹羽に抱かれるとき、ケイタの心は幸福に包まれる。
 それをなんというのか、ケイタは知らない。
 ただ、心が暖かくなるのだ。
 自分は一人では無いと感じる。
 心の無い人形となり、客に抱かれるのではなく。一人の人間として、大切に大切に愛されていると感じる。
 二人に抱かれている間、ケイタの中から苦しみが消える。不安が消える。
 熱い熱に溶かされて、中嶋と一つになる。優しい言葉に溶かされて、丹羽と一つになる。

『分かるだろう?ケイタ‥俺達は一つだ‥。
 お前の苦しみも悲しみも俺達が引き受ける。すべて俺達が引き受ける‥。』
『ケイタ‥お前は俺達のものだ。お前が誰に抱かれても、何をされても、変わらねえ。
 俺達はケイタを愛しているよ。ずっとずっと傍にいる。ケイタ‥』
 二人の言葉をケイタは今でもはっきりと思い出せる。始めて中嶋と丹羽に抱かれた日の言葉。
 本庄の元から救われ、怯えるケイタを二人は抱いた。
『ケイタ、傍にいるのは俺だ。分かるだろう?俺達はお前を傷つけたりはしない。
お前の苦しみは俺達が引き受ける。ほうら、俺達は一つになってる。分かるだろう?お前はひとりじゃない。いつだってお前の中に俺達がいる。
だから怯えなくていい、悲しまなくていいんだ。』
 その言葉がずっとケイタを支えてきた。
 中嶋に抱かれるたび、丹羽に抱かれるたび、ケイタはこの言葉を思い出す。
 その度に切ないほどの幸福を感じるのだ。
 二人はケイタと共に生きているのだと感じる。体を繋ぐ熱がそれを教えてくれる。
 ケイタの苦しみも悲しみもすべて感じて、共に生きている。
「中嶋さん‥ぎゅぅってして下さい。」
 重い目蓋を必死に開けながら、ケイタは中嶋にお願いする。
「寝呆けてるのか?」
 クククと喉を鳴らしながら、中嶋はケイタの細い体を抱き締める。
「起きてます。中嶋さん‥。」 
 中嶋の背中に回した腕に力を込めながら、ケイタは中嶋の胸元に口付ける。
「くすぐったいぞ。」
「我慢して‥。」
 胸元についた花びらのような跡を、ケイタは満足気に見つめ、目を閉じた。
「何がしたいんだ?お前。」
 呆れている中嶋の腕の中で、誤魔化すように笑いながら、ケイタは「印ですよ。」と呟いた。
「印?」
「‥へへ‥。中嶋さん‥が‥」
 俺を好きっていう印です。−−−−−眠気に負け、ケイタは口を動かす事すらできなくなった。
 
 さっきまであんなに近かったのに‥どうして本当に一つになれないんだろう。
 中嶋に抱かれた後、ケイタはいつも同じ事を考えてしまう。
 ほんの少しの隙間さえ無くして、ケイタは中嶋にぴったりと体を寄せ抱かれる。
 首筋にしがみつき、唇を重ね、体を擦り寄せる。
 離れてしまうのが淋しかった。 。




                    ◆         ◇          ◆



2006/04/20(木) 約束〜もう一度あの場所で〜‥40

 本当に溶けてしまいたい。とろりとろりと溶けて、中嶋の体の一部になる。丹羽の体の一部になる。
 そこには苦しみも恐怖も何も‥‥無い。
 微睡みながら、ケイタはその瞬間を願う。
 叶うはずが無いと理解しながら、願う。
 大好きな二人の一部になれたらいいのに。
 本当に、そうなれたらいいのに。
 骨も肉も髪も、全部溶けて、二人の一部になりたい。大好きな二人の‥そうなれたら、どんなに幸せだろう。
 中嶋と丹羽の、二人の絆を誰より深くケイタは理解していた。
 何も言わなくても通じ合い、信じ合っている。強くて優しい、二人の保護者。
 二人の事がケイタは誰より好きだった。
 中嶋はいつも冷静で、正しくて厳しかった。
 丹羽は、豪快で明るくて、暖かくて、太陽みたいだった。
 守られるだけの存在でしかない自分が、ケイタは少しだけ悲しかった。
 二人の中に溶けてしまえたらいいのに。抱かれるたびにケイタは思う。
 そうしたらどんなに幸せだろう。そうすれば二人の荷物となることもない。
「ケイタ?眠ったのか?」
 中嶋の声が遠くに聞こえた。
「‥仕方がないな。」
 抱き上げられる感覚。体がふわりと宙に浮く感覚に、ケイタは体を堅くする。
「‥髪を乾かさないとな‥。」
 体を拭かれ、髪を乾かされながら、無意識に微笑みを浮かべていた。
 中嶋の長い指が髪を梳き、ドライヤーの風をさらさらと通していく。
 少し癖の強いケイタの髪は、乱暴に乾かすとすぐに絡まってしまうから、中嶋は丁寧に毛先を解し、梳いていく。
 優しい指先の動きに、ケイタの思考は止まる。
 甘い甘い時間。
 静かに時が流れる。
 この家で二人に抱かれ、こうして甘やかされる時、ケイタの心は幸せに満たされる。
 苦しめる存在もなく、悲しませる物もない。
 あるのはケイタへの深い深い愛情、それだけだった。
「‥ふふ。」
 体を中嶋に預け、ケイタは夢の中へと入っていく。
「笑って‥夢でもみてるのか?‥ゆっくり眠るんだ‥ケイタ。
 大丈夫‥。楽しい夢だ‥誰もお前を苦しめたりしない。俺も丹羽も、いつだってお前の傍にいる。」
 ベッドに運ばれ、毛布をふわりと掛けられる。
「おやすみ。ケイタ。」
 静かに時が過ぎていく。
 このまま時が止まればいいのに、そうしたら‥叶わぬ夢を思いながら、ケイタは夢の中に落ちていった。

××××××

「なんだ、まだ飲んでいたのか?」
 中嶋の声に丹羽はギクリと書類を伏せた。
「ケイタは寝たのか?」
 何気ない風を装って、グラスを煽りながら、中嶋の視線の先を察して丹羽は心の中で舌打ちする。
「なんだそれは。」
 勘の良い中嶋に、隠し通せる自信など始めからなかったものの、こんな形で見せるつもりは無かった。
「昼間おやじから預かったもんだよ。」
「ふん?急ぎの件ってやつか。それで?」
 すぅっと中嶋の瞳が細くなる。不機嫌そのものの顔。学生時代から、丹羽は幾度となくこの顔を見てきた。
 ケイタは気が付いていないが、中嶋の導火線はかなり短い。中嶋のその独特の正義感は、嘘や隠し事を極端に嫌う。本人は認めないだろうが、ある意味正義感の強い人間だった。
 ある意味‥というのは、本人の独特の基準がある為だ。世間一般の正義と、中嶋のそれとは少しばかり差がある。
 なにせ、自分が納得していれば、世間にどう思われようと構わないのだ。その為に学生時代は悪い噂がたつことも多かった。
 本人はまわりの噂など、うるさい蝿が飛んでる位の意識しかないのだが、まわりはそうはいかない。
 結果的には正しい事も、その工程が、周囲が理解できる範囲を越えている事も多々あるし、それで誤解されても弁解の言葉もないのだ。 その為、丹羽も最初は中嶋を誤解して、嫌な奴だと思い込んでいたのだ。
 嫌な奴だと思っていた。どこかいつも冷めていて、嫌味で、丹羽の好みの相手では無かったのだ。
 それが今では一緒に暮らしいてる。生涯の相棒だと思いながら、暮らしている。
 その事が、不思議だった。
「うん、ケイタの耳には入れらんねえからさ、起きてこねえよな?」
 ドアの向こうに視線を流し、丹羽は中嶋に問う。
 ドアの向こうに眠るのは、中嶋が自分の生き方を変えてまで守ろうとしている相手だった。
 なぜ中嶋がケイタを自分で保護しようとしたのか、丹羽はその理由が始めは理解できなかった。冷静に考えたら警察に任せて当然の話なのだ。
 それなのに、なんの関係も無い子供を中嶋は何とかして救おうと必死なのだ。 独特の正義感からなのかなんなのか、訳も分からず丹羽は何時の間にか巻き込まれていた。
 そして、気が付けば自分も同じようにケイタを守ることに必死になっていた。
 ケイタを守りたい。すべての事から守りたい。
 その思いだけで暮らしてきたというのに、なのにその思いを嘲笑うように現実は厳しかった。
「ああ、よく眠ってる。あれなら一時間ほどは一人でも問題ないだろう。」
 厳しい現実。−−−封筒の中身について冷静に話す自信は無かった。
「そうか。‥お前も飲むか?」
 立ち上がり、グラスを取るとバーボンを注ぐ。
 素面の人間に聞かせられる話では無かった。
「‥‥。」
「飲めよヒデ。」
「‥お前、飲み過ぎじゃないのか?」
 呆れたように丹羽を見る中嶋の視線は、どこか優しい。
 注意深く観察しなければ他人には分からない中嶋の変化が、丹羽には容易に理解できた。
「平気だ。酔ってねえ。」
 いくら飲んでも酔う事は出来なかった。
 頭の中に霞がかかり、消えていく。その繰り返しだった。
「ふうん?」
「‥和希、今日は来なかったんだって?」
「そうだな。いい加減あいつだって仕事があるだろう?」
「そうだよな。」
 何から話したらいいのか、丹羽は決めかねていた。
「それでケイタ元気なかったのか?また和希の機嫌を損ねたんじゃねえか‥とかさ?」
 夕食の時間、ケイタは少しボンヤリとしていた。
 食欲が無いわけでは無かったが、いつもの様な笑顔ではなかった。



                    ◆         ◇          ◆



2006/04/21(金) 約束〜もう一度あの場所で〜‥41

「来ると言っていて連絡もなかったんだ。気にもなるだろう。」
 不機嫌そのものという声で中嶋が答えながらグラスを呷る。
 和希の話題はいつも中嶋を不機嫌にした。
「電話なかったのか?」
「なかったな。」
「へえ?」
 その事が丹羽には意外に思えた。
 今まで和希は、毎日同じ時間に現われていたのだ。
『明日も来ていいかな?』
 帰り際必ずそう聞いて、ケイタが頷くのを嬉しそうに見つめ、また翌日現われる。和希がこの家に来るようになってからというもの、それは毎日繰り返されていた。勿論昨日もそうだった。
『明日も来てもいい?ケイタ。』
 いつもと同じ和希の問いに、ケイタはにこりと頷いた。頷いてそして、
『お待ちしてますね和希さん。
 あ、明日もしも晴れたら、一緒に屋上で陽なたぼっこしませんか?
俺ね陽なたぼっこするのが大好きなんです。いつもクロとマロンと陽なたぼっこするんですよ。
すごぉく気持ちが良いんです。』
 ケイタがそう言うと、和希は傍で見ている丹羽の方が照れるほど嬉しそうに笑って、ケイタの両手を握り頷いた。
『楽しみにしているよケイタ。明日は晴れるといいね。』
 あんなに嬉しそうに約束してたのに、連絡すら無かったのならケイタは落ち込むだろう。
 屋上はケイタの気に入りの場所のひとつで、そこに和希を誘うという事は、ケイタが和希にやっと慣れてきた証拠の様なものなのだ。それなのに、今日に限って和希は現われなかった。連絡も無く、来るか来ないか分からない相手をずっとケイタは待っていたのだ、気落ちして当然だった。
 ケイタの気持ちを思うと、丹羽の方がなんだか落ち込んできそうだった。
「‥‥そういう男なんだよあいつは。」
 和希が来ても来なくても、中嶋を苛立たせる事に変わりは無いらしい‥という事実が少しばかり可笑しくて、丹羽は苦笑しながら同意した。
「そうだな。電話ぐらいすりゃいいのになぁ。」
 そうすれば、中嶋の機嫌も悪くならずにすんだってのに、和希の奴どうもいろんな事が抜けてるんだよなあ。次に逢ったらそれだけはこっそり忠告しといてやろう。その方がいいよな?ーーー丹羽にしては珍しく、そんな事を考えながら、中嶋のグラスに酒を注ぐ。
 お互い何時もにも増してペースが早い。この分だと話し終わるまでにボトルが2、3本空きそうだった
「で?お前のおやじは何て言ってきたんだ?急ぎだったんだろ?」
「ああ、色々あってどれから話していいのやらって感じだな。」 
 書類を丹羽に見せながら話す竜也の顔は辛そうで、丹羽はそんな父親の顔を見たのは生まれて始めてだった。
 丹羽にとって、竜也という男は、いつだって自信たっぷりの、倒したいのに倒せない相手だった。丹羽がいくら必死になって向かっても勝てない相手。勝てないばかりかその度に散々莫迦にされるのだ。
 悔しくて悔しくて、丹羽は竜也に勝つためだけに体を鍛えた時期もあった。そんな竜也が、今日はやけに年を取ったように見えた。
 丹羽に話ながら、竜也は始めて自分の力不足を認めたのだ。
 それは衝撃的な出来事だった。
「どう説明したらいいんだろうなあ。」
 グラスを干しながら、これをどう中嶋に話すべきか考えている間、丹羽の脳裏に竜也の顔が浮かんでいた。
「ふん。そんなもの、おまえのおやじが話したとおりそのまま言えばいいだろう?」
「それはそうなんだけどよぉ‥‥。」
 そうしたくない理由があった。出来ることなら中嶋には内緒にしておきたい気分だったのだ。
 話せばこの男は色々と考えてしまうだろう。
 本人の独特の基準というものはここにもしっかり存在するのだが、繊細さとは遠く離れた性格をしているように見えて、中嶋は実は色んなところに気を回しすぎる男なのだ。
 中嶋は他人にそれを知られたら、きっぱりと完全否定するだろうし、そもそもそんな気配すら見せないけれど、付き合いが長い丹羽には、他人に見えない中嶋の性格がよく分かるのだった。
「その書類は?何番目の話だ?ん?哲ちゃん。」
 この話を中嶋にしないほうが良い。それは丹羽は直感した。けれど、中嶋に見つかったからには話さない訳にはいかなかった。
「一番目と二番目。ったく。」
「ククク。それを話したくなかったって事か?
何気を使っているんだ?らしくないな。俺は何を聞いたところで驚かない。
そんな柔な性格じゃあないからな。」
 にやりと笑い、中嶋は煙草に火をつける。
 この顔に騙されるのだ。いつもこの余裕の笑いに騙される。どんなに切羽詰まった時でも中嶋は余裕の顔で笑うから、だからいつも丹羽は騙されるのだ。
「分かったよ。お前の神経が図太いのは昔っからだ。
たまには気ぃ使ってやろうなんて思った俺が間違ってたんだよ。ちぇっ。お前みたいな奴には、俺の優しい気持ちって奴が理解出来ねえんだよな?」

 たぶん中嶋は衝撃を受ける。それは分かっていた。けれど丹羽はそれに気付かない振りをして、中嶋の笑みに騙された振りをして話し始めた。
 こいつは、とんでもねえ男だよ、まったく。絶対に自分の弱いところ見せたりしねえ。それどころか、自分が追い詰められた時程、余裕の顔して笑ってやがる。
「まずはこの書類だ。」
 渋々丹羽は書類の束を中嶋に見せた。
 文書と写真のコピーの束を、中嶋は時間を掛け目を通す。
「これに何の意味がある‥。」
 すべてに目を通した後、中嶋は眉間に皺を寄せ、丹羽を見た。
「わからねえか?」
 これだけで分かる筈が無い。見せなければならないものは、まだあった。
「‥分かるわけ無かろう?5年も前の埼玉の民家のガス爆発なんて。」
 黒焦げの廃材。瓦礫の野原と化した狭い土地の写真。小さな子供の写真とその親らしい男女の写真等々。 それらを見てもさすがの中嶋もなぜこれを丹羽が言い渋っていたのか理解できず、首を傾げていた。



                    ◆         ◇          ◆



2006/04/22(土) 約束〜もう一度あの場所で〜‥42

「この事故を起こした犯人は久我沼なんだ。」
 どう話しても結果は同じだ。丹羽は決心して淡々と事実のみを説明する事にした。
「久我沼?あいつが?何故。」
「順を追って話せば長くなるんだ。‥これはな和希の話なんだよ。」
「鈴菱の?‥鈴菱と久我沼は、この家族とどういう関係なんだ?」
「ああ、この亡くなった家族‥伊藤家の長男の名前は啓太。この少年は和希の‥ううん、なんていうか‥大事な人だったらしいんだ。」
 その言葉に中嶋は写真を見なおした。
 大きな瞳にふっくらとした頬。明るい色の髪は元気良くあちらこちらにはねている。可愛い顔立ちではあるが、かなり幼い感じで、恋人云々という話が出そうな外見ではない
「伊藤啓太‥‥大事って‥おい、この子供亡くなったとき幾つだったんだ?」
「11才。」
「‥あいつの思考はどうなって‥一体幾つ違うんだ?」
 少なくとも事件が起きた頃、和希はとっくに成人しているはずだった。中嶋達でさえ大学を卒業している。
「さあな、14、5は違うんじゃないか?
おいおいヒデ〜っ。年はこの際関係ないだろう?
今してるのはそんな話じゃねえよ。
だいたいお前人の事言えないだろ?初めてしたの幾つだよ。そん時の相手は幾つの奴だったんだ?ん?」
 丹羽は意図的に話を脱線させ、以前から気になっていた事を聞いてしまう。
「ん?‥‥ああそうだな、そういえば‥。」
 丹羽の問いに中嶋は当然の様に頷くから、予想していたとはいえげんなりとしながらも追求する。
「ほらみろ。人の事言えねえじゃないか。その時いくつだったんだよ。」
 少なくとも俺は中学入ってからだぞ?お前の最初の相手ってどんな奴‥どっちだ?女か?−−−−興味半分、怒り半分で丹羽はさらに話を逸らそうとする。
「相手は?どんな奴だった?」
「‥さあな。良く覚えてないな。‥‥話を変えようとしても無駄だぞ。哲ちゃん
この子供の家を爆破する理由は?」
「‥‥逆恨み。」
 中嶋相手に通じる訳はないと分かっていたものの、もう少しくらい乗ってくれてもいいんじゃないか?と恨めしく思いながら、丹羽は仕方なく話を戻す。
「逆恨み?」
「学園から追われた恨み。」
 それが原因で、関係の無い命が消されたのだ。虫の命を奪うより簡単に、久我沼は命を奪ったのだ。
「たかがそれだけで?」
「ああ‥それだけで、一家4人を殺害した。どうみても事故とは思えない、破壊工作の見本みたいな爆破なんだとよ。証拠を消す気もなかったらしい。つまり捕まらない自信があったって事だ。」
 丹羽の声が、怒りで震えた。
 昼間竜也から、事件の夜和希に来たという、久我沼からの電話を録音した物を聞かされた時分かった。
 久我沼はこの殺人を楽しんでいる。
 犯行声明というよりも、和希の反応を楽しむための電話、その印象が強かった。
 完全な逆恨み、久我沼はただ和希を悲しませ、苦しめるためだけに殺人を犯したのだ。そして、次のターゲットを示唆し、和希を脅して身の安全を保障させた。
 楽しむためだけの殺人。そんなものを許せる筈が無かった。けれどその犯人を追うことは、次の事件を生むこととなる。しかも、無差別の大量殺人となる可能性があった。
 可能性がある以上、和希はそれを阻止しなければならなかった。
 可能性がある以上、竜也は追うことが出来なくなった。
「自信?
‥なんで久我沼は捕まっていない?そんなニュースはなかった筈だが?」
「表立った調査はされてないんだ。事故として処理されている。」
「鈴菱の体面って奴か?」
「それだけじゃねえ。あいつは脅したんだ。
自分を追うなら、和希の周りの人間はすべて同じ目にあうぞってな。」

「‥同じ?」
「ああ、久我沼を追い出す事に協力した俺達。そして学園の関係者。」
 久我沼の笑い声が、丹羽の頭の中でこだまする。
 勝ち誇ったような笑い。
 そして、絶望に震える和希の声。
「‥そんなものただの‥。」
 脅し‥そう中嶋の唇が動いても、声にならなかった。
「脅しと言い切れるか?」「言えないだろうな。」
「鈴菱の研究所から、久我沼は数種類のウィルスと薬品を奪っていったんだ。これがそのリストと感染した場合の症状。」
「殺傷能力の高いものばかりだな。しかも感染力も強い。」
 久我沼は、鈴菱の研究所から、ウィルスと研究員を奪っていった。
 知識の無いものが持っていても、大した驚異はないが、使い方を心得た研究員が居るとなれば話は大きく変わる。しかも テープで次の標的とされていたのは、中嶋の父親が経営する病院だった。
「あいつはさすがに和希の性格を良く理解してる。自分を攻められるより、周りを攻めたほうが100倍効果があるからな。
一番大切な奴の命を奪って、それから更に脅す。こんな効果的な方法はねえ。」
 その脅しは多分、久我沼の想像以上の効果をあげたのだ。
「‥‥‥。」
「和希は久我沼を追うの諦め、渡米した。そしてこの事件は事故として処理された。」
 そして事件は事故として封印されたのだ。和希の手によって。
「それで?」
「それでって?」
「‥久我沼一人でそんな犯行が出来るわけがない。仲間がいるはずだろう?」
「それが‥。」





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いずみんから一言

この連載は完結できなかったが、この回で結末の予測はつけられる。
まさに「手がかりてんこ盛りの巻」である。
これまで「たぶんこうだろう」と思いつつ読んで来ていたのが、「やっぱり」となったようなものだ。
妹のとうこさまの手で未発表分のupが終ったら、どなたか結末をつけてくださらないだろうか。
みのりさまと同じ書き手として、さいごにいつもの「Fin」をつけられなかった無念さがわかるだけに、
そう思わずにいられないのだが。

そして。この回くらいから一言のコメントがほとんど書かれなくなる。
これまでは日記や拍手のお礼は掲示板に移動しても、コメントは最後に書いておられた。
それが「切りのいいところで以下次号」となるのではなく、とにかく文字数制限一杯まで書くように
なられたのだ。
検査で病気が見つからなくても、もう相当、体調が悪くなっておられたはずだ。
ここまで詰めて書くようになられたのは、もしかして最後まで書ききれないという予感を抱いておら
れたのだろうか。1行でも2行でも多く、書かずにはいられないほどに。
伊住の耳にはそのときのみのりさまの、前だけを見据えた息遣いが聞こえてくるようだ。

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