もういちど、この腕に

第 10 回




 小男は開けたドアを押えたまま立っている。久我沼がもう一度「早く乗るんだ」と言った。
 乗りたくない。乗っちゃいけないと、頭の中でもうひとりの俺が叫んでいる。そんなに叫ばなくたって、いちばん分ってるのは俺自身なのに。でも和希だけじゃなく、朋子のことまで持ち出されたら、俺にはもうどうすることもできなかった。
 車に乗る前に、せめてここで何かあったと知らせようとポケットに手を突っ込んだ。俺がいなくなったって分かったら、きっと和希や中嶋さんが探しに来てくれる。手がかりを探しに来てくれるに違いないんだ。だからそのときのために何かを残しておこうと思ったのだった。
 ポケットの中にあったのは携帯電話とハンカチ。気の利いたものが入ってなくてがっかりしたけど贅沢はいえない。俺は手に触れたハンカチをぎゅっと握りしめた。
 名前なんて書いてないけど。ごくありふれた白いハンカチだけど。じっとりと手にかいた汗が染み込んだと思うから。何かのときにはDNA鑑定をしてもらえるに違いない。そうしたら俺が落としたんだって分かってもらえる。
 おねがい、中嶋さん。おねだりしたら何でも聞いてくれてるでしょう? だったら気がついて。これを拾って……!!



 鈴菱の御曹司にしては安っぽい車に乗っていると思っていたら実は覆面パトだったらしい。中嶋の話を聞いた丹羽警視の部下は、見事なジャックナイフ・ターンで車線を変えつつ左手で掴み出してきたパトライトを屋根の上に装着した。派手なサイレンを鳴り響かせ、慌てて進路を譲る車をさらに蹴散らしながら突き進む。中嶋もいいかげん強引な運転をすることがあるが、犯人を追跡するノウハウを持った刑事の運転テクニックは、素人のそれとは所詮レベルが違っていた。
 刑事のテクニックと追跡用に積んである大型エンジンとの相乗効果で、車は中嶋が予想していた半分以下の時間でマンションのエントランスにすべりこんだ。停止しきる前に中嶋と和希が飛び出し、エントランスホールを駆け抜ける。幸いにもまだ暑い平日の昼間に出歩こうという人もなく、1階で待機していたエレベーターで一気に19階まで上がった。
 いつ啓太が帰ってきてもいいように、失踪したのが分ってから玄関に鍵はかけていなかった。そのドアを勢いよく開け、靴を脱ぐのももどかしく中へ飛び込む。驚いて顔を見せた岩井を一瞥する余裕すらなかった。中嶋が書斎のデスクの引出しから古い手帳を探す一方で、和希はパソコンからアドレス帳を立ち上げた。ふたりが探しているのは佐野祥祐という中嶋のジャズ仲間の連絡先だった。以前ジャズコンサートのチケットがダブったときに中嶋が自分の分を譲った相手である。
 中嶋がBL学園に入学した年に、寝たきりになった義父を看取るために異動の希望を出した佐野は、夫人の実家のある神戸に引っ越していた。それが確か有名な広域暴力団の総本家近くだと聞いた記憶があったのだった。子供の頃には出入りの組員から、ずいぶん可愛がられていたのだ、とも。
「佐野祥祐……。出たぞ」
「自宅の電話を控えておいてくれ。名刺が見つからなかったらそこにかける」
 仕事中、佐野は個人の携帯電話の電源を切っている。それは佐野個人の口から何度か聞かされていた。そのあたりの公私混同をひどく嫌う男なのだ。夫人でさえ仕事用の携帯電話の番号を知らないのだといって笑っていたくらい、それは徹底されていた。今回も念のために車内からかけてみたが、やはりプライベート用は電源を切られていたのだった。
 2冊目の手帳の折り返しからその名刺は見つかった。今となってはどういう経緯で名刺などを貰ったのか思い出せないが、捨てずにもっておいてよかったと思った。少なくとも時間の短縮にはなる。和希だけでなく、車を置いて上がってきた丹羽警視の部下や岩井までもが見守る中で、中嶋は電話を取り上げた。
「もしもし。お仕事中、恐れ入ります。横浜の中嶋です」
『……ああ、君か。珍しいね。仕事中にかけてくるなんて』
「申し訳ありません。緊急の……、いえ、1分1秒を争うお願いがありまして、失礼を承知でかけさせて頂きました」
 ちょっと不愉快そうな佐野だったが、中嶋の声に尋常ならざるものを感じたのだろう。「ちょっと待って」という声につづいて、場所を移動する気配が伝わった。
『どうしたね。1分1秒とは穏やかじゃない』
「すみません。行方不明になった高校生の足取りを追っているんですが、どうも暴力団によって中東に売り飛ばされたらしいんです」
『えっ……?』
「でも今のところ、それ以上の情報がありません。オークションにかけるというだけで、どこの国へ連れて行かれたのかも分らない。それで、佐野さんは確か今」
『ああ。田辺組総本家の真裏に住んでるよ』
「誰かにコネをお持ちじゃないでしょうか。同じ暴力団同士ならルートのようなものの見当がつけられるかもしれないですし。そういうオークションの情報だって持っているかもしれない。早く……、早く啓太を見つけてやりたいんです。お願いします! なんとか助けてやってください……っ」
『……啓太って、あのコンサートのチケットを買った子かい?』
 自分でも気づかないうちに頭を下げていた中嶋が、弾かれたように顔をあげた。
「そうです」
『分った。家内に話をさせる。あれは生まれたときからあそこに住んでるからね。連絡は君の携帯でいいかい?』
「はいっ。お願いします」
『大丈夫、きっと見つかる。だからもう少し詳しい話をしてくれ』
 
 返事は携帯にくれるのだから移動してもかまわないはずだった。だが誰一人として東京へ戻ろうと言わなかった。とはいうものの、いくらなんでも10分やそこらで返事が来るはずはない。席をはずした丹羽警視の部下が近くのコンビニまで弁当を買いに行き、誰もが上の空の状態で味も分らないままそれを腹におさめた。中嶋も和希も昼食をとっていないことに気づいてもいなかったのである。
 食事の後もただただじっと携帯電話を見つめつづける中嶋をそっと残し、和希が他のメンバーをキッチンへ来るよう促した。大前チーフに捜査の進捗状況を聞き、丹羽警視の部下や岩井と、これからのことを打ち合わせておくためだった。中嶋のいる書斎とキッチンではかなりの距離があるので、電話をしようが話をしようが、中嶋の邪魔をする恐れはなかった。
「啓太は見つかりそうか?」
 通話を終え、携帯をたたんだ和希に、コーヒーを出しながら岩井が聞いた。
「……最善を尽くしてます」
「……そうか……」
 最善を尽くしている。それは「まだ何も分っていない」と同義語であった。その言外の意味を正しく読み取った岩井は、数度うなずいてから言葉をつづけた。
「もしオークションになったら俺にも声をかけてくれ。とりあえず1億、いつでも届けてくれるように銀行には連絡してある」
「岩井さん……?」
「相手は中東の石油王だと聞いた。たかだか1億でも上積みがある方がいいだろう。何枚か書く約束をして手付を先にもらえれば、もう1億くらいはなんとでもなる」
「…………」
「使い道のない金だ。啓太を買い戻すのに使えるなら惜しくはない」
「岩井さん……!」
 岩井の両手を握り締めながら、和希は深々と頭を下げた。この人の無償の厚意に報いるためにも、啓太を見つけなければならないと心の底からそう思う。岩井のことを「岩井画伯」と知らない丹羽警視の部下が、風采の上がらない男の口から簡単に出てくる金額の高さに目を白黒させていた。

 中嶋の携帯が鳴ったのは、佐野と話をしてから1時間近く経ってからのことだった。非通知の設定がされていた相手は聞き覚えのない若そうな声の男で、佐野または佐野夫人からかかってくると思っていた中嶋は、もう少しで電話を切ってしまうところだった。キッチンから駆けつけてきた3人が、固唾を飲んで中嶋の口元を見つめた。
『あんたかい? 高校生を探してる、ってのは』
「そうだ」
『そいつ……あんたの弟か何か?』
「いや、違う」
『じゃあ何?』
「俺の命より大切な存在だ」
『はっ!? 命とはまた大げさじゃないか』
 挑発するつもりか、それが地なのかは分からなかったが、男は大仰に驚いて見せた。だが中嶋は乗らなかった。腹を立てて電話を切るのはいつだってできるのだ。だが切れた電話はもう二度とつながらないだろう。
「俺が死んで啓太が助かるというのなら、いつでも喜んで死んでやる。ただし、そうなった場合、あれも生きてはいないだろうがな」
『ふうん。たいした自信だね。じゃあもう死んでたらどうするわけ?』
「たとえ死体になっていようと俺のものに代わりはない。骨になっていようが灰になっていようが、必ず俺の腕に取り戻す。……それだけだ」
 数瞬の沈黙があった。切れたかと思ったが、やがて低い笑い声が耳に届いた。
『くっくっ……。あんた気に入ったよ』
 そして笑いはじめたときと同様、不意に口調が変った。先刻までの、軽いノリでおちゃらけた男と同一人物とは思えないくらい、それは真面目で真剣なものだった。
『少なくともこの1週間、あんたの言う条件に合った人間が飛ばされた形跡はない』
「本当か!」
『ああ。どこの耳にも入ってない』
「それは……確かなんだろうな?」
『人間ひとり飛ばそうと思ったらそれなりに手が必要だ。自分の意志で飛ぶならまだしも、誘拐して飛ばすなら尚更だ。そうなったら必ずどこかから聞こえてくるものなんだ。外には洩れなくても内では聞いている奴がどこかにいる』
「なるほど」
 ペンを掴んでいた中嶋の手が 『 まだ国内にいる 』 とメモに大書きした。手元を覗きこんでいた和希たちの口から、「おおっ」とも「うっ」ともつかない声があがった。和希と顔を見合わせた丹羽警視の部下が書斎を飛び出していった。
『漁船を使うルートも今は無理だ。こないだ領海侵犯があったろう。あれのおかげで海自も海保もピリピリしてる。税関までが特別警戒してるんだ。そんなときに無理をしても割に合わん』
 確かにこのところ、ミサイルらしき物体が飛んできたり偽装漁船が領海侵犯したりして、新聞やニュースを騒がせていた。中嶋も苛立たしい思いをしつつニュースを見ていたひとりだったが、そのおかげでいつもより警戒態勢が強まっていたのだ。事件を起こしてくれた隣国に感謝状を贈りたい気さえした。
『安心するのは早い。手数料だけとって埋めるか沈めるかしたかもしれない。いつまでも手元に置いておくのはリスクが高すぎる』
「…………っ!……」
 その一言は、安堵の息をつきかけた中嶋の背に冷たいものをあびせかけるに十分だった。そうだ。啓太はまだ見つかったわけでも何でもない。これから探してやらないといけないのだ。捜査は何も進んでいない。久我沼の一言で入り込んでしまっていた回り道から、もとの道に戻ったにすぎないのだった。
『川崎にトリニティってソープがある』
「…………」
『罰当たりな名前だが、3Pをウリにしてるから、まああながち外れてるわけでもない』
「…………」
『そこで馬鹿騒ぎしてる二人組がいる』
「それが例の二人だと?」
『それは分らない。俺が勝手にそう思ってるだけだ。だいたい 『 松之尾組のナオさんですか 』 なんて聞いてみろ。誰がはいと言うものか』
 確かにそうだった。情報が正しいかどうかの判断はこちらでしなければならないのだ。責任は情報提供者ではなく、その情報を採用した側が取るものだ。それは普段の中嶋では口に出さないような愚問だっただろう。それだけ中嶋は余裕を無くしていたのかもしれなかった。
『ただ遊び慣れてないのが大金を持ってきたんだ。すでにカモにされてる。うちの末端ではあるが止めることはできない』
 この情報にTRUEと判断を下した中嶋の手が再び動き、 『 川崎 ソープ トリニティ ナオ 』 とメモした。さらに 『 至急! 』 と書いてマルで囲む。岩井がそれを破りとって書斎を出た。啓太がまだ国内にいるらしいと報告中の、丹羽警視の部下に届けるのだろう。
『早くした方がいい。松之尾より先にふたりを見つけるんだ。組のメンツを丸つぶれにされたわけだからな。向こうに落ちたらもう情報は取れないと思え』
「わかった。貴重な情報、感謝する」
『それからそのふたりだが。情報を取ったら、何が何でもブチこんでやってほしい。刑務所に逃げる以外、やつらの生き延びる道はない。松之尾も暇じゃない。チンピラ相手にそれ以上は追わんだろう』
「約束する」
 そして礼を言って通話を切ろうとした中嶋の耳に、再び低い笑い声が届いた。
『なあ、ちょっと待てや。どうせ警察が一緒なんだろ? メモでも回せばあんたの仕事は終わりだ』
「……メモはもう回した」
『くっくっくっくっ……。なあ。俺、あんたが気に入ったって、もう言ったかな』
「……聞いた気はする」
『そうか。あんた名前は?』
「中嶋英明だ」
『そうか、俺は『かずきよりとお』だ』
「えっ!?」
 突然出てきた思わぬ名前に、中嶋が和希の顔を見上げる。いきなり顔を見られて、不審そうに眉をひそめた和希が、視線を返してきた。
『数城だよ。数字の数に姫路城の城だ。それに頼ると遠いで数城頼遠だ。本名じゃないがな、この世界じゃこれで通ってる。……この名前、覚えといて損はないぜ』
「……そうさせてもらおう」
『じゃあな、中嶋くん。あんたの探してる子、見つかるように祈ってるよ』
「有難う。……数城、さん」
 かすかな笑い声と共に、今度こそ電話が切れた。ためこんでいた息を深々と吐き出す。いつの間にか傍に戻ってきていた丹羽警視の部下が、「数城って……。もしかして田辺組の数城のことですか」と聞いた。

『 Eから伝言 伊藤くんが国内にいる可能性大 』
 西園寺がそんなメモを受け取ったのは、連絡が取れるかぎりの中東の知人に電話をしつくし、フランス人の伯爵と話をしているときだった。屋敷には何人もの少年がいるという噂があり、そういうオークションの情報ももっているかもしれない男だった。耳と口で話をしつつ眼でメモを追った西園寺は、静かに形のいい眉を跳ね上げた。
「臣、この情報の出所は」
 西園寺の話が終わるのをじっと待っていた七条に、西園寺が問いかけた。
「暴力団関係だそうです。そんな話は知らないと言ったとか」
「なるほど……。彼らには彼らにしか持てない情報源もあるのだろうな」
「そのようですね」
 そういえば寺田刑事からも、久我沼が接触した暴力団は拉致に関与していないらしいと連絡が入っていた。あれはここにつながる情報だったのだと思う。
 七条から詳細を聞きながら、西園寺はデスクに置かれていた紅茶をすすった。淹れ替える余裕もなく時間が経ってしまった紅茶は、すっかり冷え切っていたし色もにごってしまっていたが、頭を切り替えるためには十分な渋みがあった。なにしろ今の今のこの瞬間まで、啓太は中東に送られてオークションにかけられるとばかり思っていたのである。いかに切れ者の西園寺といえども切り替えるための手続きが必要だった。
 ソーサーに戻したカップを七条に手渡した西園寺は、ふと思いついたような口調で呟いた。
「啓太が日本にいるのだとしたら。中東でオークションにかけると言った二人組は、久我沼から啓太を受け取ってどうしたんだろう」
 それは本当に小さなものだったが、七条や本条を振り向かせるには十分だった。
「警察が身柄を確保しに川崎の風俗店に向かっていると言うことでしたから、まもなく分ってくると思いますが」
「それでは時間がたってしまう。売り飛ばされたなら啓太は商品だ。食事も環境も、最低限のものは保証されるだろう。だがお荷物になると……」
 エアコンの効いた室内にいると忘れがちだが、外は真夏と変らない太陽が照りつけている。不快指数もどんどん上がっていることだろう。縛られた状態で閉めきられた倉庫の隅に転がされているとしたら、啓太の体力はもう限界のはずだった。売り飛ばされる方が安心できるとはあまりに皮肉すぎた。
「レンタカー借りたんじゃないかな」
 椅子をこちらに向けた本条が言った。住み込みであろうチンピラでは自分の車を持てないというのだ。
「久我沼から手数料とってたんだろ? 手付とかって少しもらってれば、レンタするには十分だよ。友人とかアニキ分からは借りにくいだろうし、借りて口止め料を払ってしまうと、あとあと食い物にされかねない」
「……レンタカーか……」
 たしかにそうだ。本人の意思に逆らって、人間ひとりを動かすのだ。足がないとどうにもならないのに違いない。とりあえず遠藤に報告しておくか。そう言うと西園寺は電話機を取り上げた。

「田辺の数城と言えば、知らない人間はいないくらいの大物ですよ。よくそんなのを引っ張り出したものだ」
「いや。本人がそう言っていただけだ」
「じゃあ本人でしょう。いくらなんでもその名前を騙る関係者はいませんからね」
 同じ名前に興味を惹かれたのか、和希がどういう人物なのかを尋ねた。どうせトリニティへ向かった捜査員から情報が上がってくるまで動けないのだ。ならば数城という男からの情報がどのくらいのものなのか、見極めておこうと思ったのだった。
「次は無理でしょう。でも次の次は確実と言われてる男ですよ。3代目に気に入られてスタンフォードで経営学をやってたんですがね、留学中に3代目が殺されてしまった。普通だと飛んで帰ってくるでしょう? それが数城ときたら経営学修士をとるまで帰国しなかった。オヤジはそれを望んでいる。とか言ったらしいですがね。それやこれやで4代目でほされてたのが、5代目に拾ってもらって今の地位についた」
 おもしろい、と言えば誤解があるかもしれない。今どきの組事務所では、有名ブランドのソフトスーツを着こなしたインテリやくざがパソコンに向かって、日がな一日マウスをクリックしているのが日常風景となった時代である。スタンフォードで経営学を修めた人間がいたところで不思議はない。だがいずれは日本最大の暴力団組長になろうという男の経歴にしては、信じられないくらいのユニークさだった。
「数城の名前が有名なのは、実はそんなことじゃないんです。奴は自分の組からただのひとりといえども刑務所行きを出していない。あんなところで人生の無駄遣いするのを 『 箔がつく 』 なんて思ってる馬鹿はうちの組にはいらない。そう公言して、組員にも徹底させてますよ」
 企業家である和希は、この瞬間に数城の人となりに落ちた。会ったことはなくても一目惚れしたといっていい。そして和希の中の企業家の部分は、数城の分析は信用するに足ると思いはじめていた。



 もう引き延ばすこともできなくて、仕方なしに車の方に足を向けた。鉄の靴を履いているみたいに足が重たかった。ものすごく時間をかけてのろのろ歩いたつもりなのに、車はあまりにもすぐ近くにあった。
 開けられていた右のドアに上半身を先に突っ込み、ポケットから手を出すふりをして落としたハンカチを、車の下に蹴りこんだ。小男からはドアが邪魔をして見えないはずだ。
 中嶋さん。気づいてください。俺はここで車に乗せられました。どこへ連れて行かれるか分からないけど、でも、ここまではちゃんと学園に向っていたんです……。
 小男がドアを閉め、運転席に乗りこんだ。良かった。気づかれてない。
 そう思う間もなく久我沼が俺の隣に乗り込んできた。「出せ」と命じるまでもなく車がゆっくりと発進する。そして幹線道路に出たとたん、膝の上に何かが放り出された。
……ハンカチだった。たった今、車の下に蹴りこんだはずの。思わずぎゅっと目を閉じた俺の耳に、久我沼の笑い声が届いていた。







いずみんから一言。

いやいやいやいや。やっとのことで国内に目が向きましたよ。
久我沼がいらんことを言ったおかげで、随分まわり道をしてしまいました。
情報をくれた田辺の数城さんっていうのは、伊住のオリキャラの中でも
お気に入りだったりします。3代目の娘の綾瀬ちゃん一筋のいい男です。
4代目でほされてたのが5代目で戻ってくるのは1本ちゃんとお話があった
のですが、昔のワープロで書いたので、今となってはもう読み出すことも
できません(涙)。
ここまで来たらもう大詰めです。今2時頃なんですが、夕方くらいには
見つけてやりたいと思います。
さて。あとはマックスと成瀬さんだ(笑)

第9話へ戻ります 第11話へ
作品リストへはウインドウを閉じてお戻りください。