もういちど、この腕に 第 14 回 |
―― 啓太ーっ! やっぱり声がする。こんなとこに中嶋さんがいるはずないのになあ……。なんだろう。幻聴ってやつかな……。こんなのが聞こえるなんて。……もしかして、俺もう……。 後からくる捜索本隊への目印にソックスを木に戻した中嶋は、ほんの少しの間、鋭い眼で周囲を見回していたかと思うと、これと思う方向に足を踏み出した。それがあまりに無造作だったので和希が思わず口を挟んだ。 「ちょ……。ちょっと、中嶋さん!」 「なんだ」 「ほんとにこっちでいいんですか? 啓太だって迷ったから目印を残したんでしょうに」 「不安に思うなら好きな方へ行くんだな。誰もついてきてくれとは頼んでいない」 昨日の朝、和希からの第一報を受けてから今この瞬間まで。中嶋は黙って指揮権を和希に委ねていた。こういう場合にはしっかり指揮系統を一本化しておかないと動きがちぐはぐになり、結局は時間を無駄にしてしまうことになる。それを知っている中嶋は、少なくとも自分よりコネやルートを持ち、さらにはより冷静な判断を下せるであろう和希に指揮権を集中させたのである。だが頭では理解していても、やはりおもしろいはずがなかった。他でもない。啓太のことなのだ。自分が思うように動けない不満は、中嶋自身が思っているよりはるかに多く降り積もっていた。 それがここへ来て、和希から啓太の行動をトレースしろといわれたのだ。もう誰にも譲るつもりはなかった。自分はもう十分すぎるくらい我慢したのだ。だから……。啓太は自分が見つける。自分にはそれができる。そして啓太もそれを望んでいる。 和希の返事を待たずに、中嶋はまた歩きはじめた。丹羽や篠宮以下の学園メンバーがためらいもなく後につづく。やがて小さなため息をひとつついた和希もその後を追った。 駄目だったら駄目でもいいや。だけど、一歩でもいいから中嶋さんに近づきたいよ。いつか誰かが見つけてくれたとき、中嶋さんの方に向ってたって知ってもらいたい。 だから……。もう一歩……。 「啓太ーっ! どこだ? 返事をしろーっ!」 「ハぁニーぃーっ! 僕だよ! 迎えにきたよーっ!」 あまり名を呼びすぎると啓太の声がかき消されてしまうかもしれない。そう言う篠宮の提言を受け入れた一行は、間を置いて啓太の名を呼んでは耳を澄ませながら進んでいった。向こうの方から同じような声が聞こえるのは、捜索本隊がそのあたりを探しているのだろう。 最初のソックスを見つけてから数分。今度は夏休みの宿題が見つかった。ノートが数冊、石の上にきちんと積み上げられていたのだ。手にとって見るとそれは確かに啓太のノートで、中嶋のやり方に不安を覚えた和希にも、彼の選んだルートが正しかったのは認めざるを得なかった。 「まだ湿っても反り返ってもいない。ここに置かれてからあまり時間が経っていないな」 英語のノートをぱらぱらと見ながら篠宮が言った。 「だが、こんな大事なものを置いて行くとは……」 確かにそこは平たくて、ものを置くにはいい具合ではあったが、紙でできたノートを置いていける場所ではない。ましてやそこは行く先に迷うような分岐点でもなんでもなかったのだ。 「……重たくなったな」 「ああ……」 31日に家を出てから丸三日。啓太はおそらく何も口にしていないのだろう。体力などなくなっていて当然だし、歩いて移動できている方がむしろ驚きであると言っていい。だからこの宿題のノートは、重くてこれ以上持って歩けなくて、そしてこの場に置いて行ったのに違いなかった。 「これ、僕が預かって行くよ」 横で見ていた本条が、そう言ってノートを受け取ろうとした。 「いや、でも……」 「いいんだよ。僕だけが役割もないのに手ぶらだし。ちゃんと持っていって、最後に啓太くんに手渡すから」 「そうですか」 宿題のノートなどそのまま放っておいてもかまわないと考えていた中嶋だったが、つまらないことで時間を取りたくなかったので本条の厚意を受けることにした。それにちゃんと手元に戻ったとわかれば、啓太がきっと喜ぶだろう。そう思い直した中嶋が篠宮や和希たちからノートを集め、本条に預ける。 「すみません。よろしくお願いします」 「確かに預かったよ」 「あとで必ず、啓太に礼を言わせます」 必ず生きて啓太を見つける。その意味をきちんと汲み取った本条は、頷きながらしっかりとノートを受け取った。 うん。一歩なら歩けてるよ。ちゃんと歩けてる。……いいぞ。俺……、中嶋さんに近づいてるよ。よし。もう一歩だけ、行ってみよう。大丈夫。もう一歩なら行ける。……絶対。 確実に啓太に近づいている。その思いに、一行の足は自然と速くなっていた。本当なら走り出したいくらいであるのに、思うに任せない山道が腹立たしかった。 傍目には無造作にルートを選んでいるように見えても、中嶋の頭の中はフル回転していた。それはまるでチェスの王者が対戦者の次の一手を予測するようなものだった。風景と地形と啓太の性格を考え、自分の進む方向を決めていく。マックスはちゃんと仕事をしているのだが、中嶋の判断の方が一瞬も二瞬も早いのだった。 「ここを右に行けば、さっき大回りになると言っていた道と合流します」 「なるほど」 森崎の説明に和希が頷いた。 そこは山の中にしては道らしくなっているところだった。麓に出る道と近いということなので、住民たちが山菜でも採りに入ってくることも多いからなのだろう。 右へはかなり急な下り坂が。そして正面には緩やかではあるが明らかな上り坂が伸びている。山を降りたいと思っている人間なら誰もが迷わず右の下り坂に足を向けるに違いない。 だが中嶋はおもしろくなさそうな顔で「ふん」と鼻を鳴らすと、そのまままっすぐ歩きつづけた。 「やっぱりこっちか?」 マックスのリードを取っている丹羽が冗談めかした口調で尋いた。啓太はまだ見つかっていないのだから、正しい道をたどっていないのは明らかだ。問題はここまでほぼ順調に下りてきたらしい啓太が、どこで道を間違えたか、である。ここを右へ下りてから違う方向にいってしまった可能性だってあるんじゃないかと、丹羽はそう言っているのだった。 「ああ。あれの性格を考えればこっちだろう。あいつは馬鹿だから、普通に考えたら間違えないようなところでミスをするんだ。何も考えずに、歩きやすい方に行ったのに違いない」 「へっへっへ。性格がおまえと違ってまっすぐだからな。だからまっすぐ行ったんだろうよ」 彼らのことばを裏付けるように、マックスは尻尾を振りながらどんどん先へ進んでいった。 なんか……。目が回ってきた。頭がくらくらする。でも、座っちゃ駄目……。座っちゃ駄目だよ。ほら……。もう一歩だよ。もう一歩だけ歩けば、次の木があるから……。だから。もう一歩だけ……。 「すまない。靴に石が入ったみたいだ」 そう声をかけて篠宮が足を止めた。ほんの2時間前まで、山に入るなどと誰も思ってもみなかったのである。滝と成瀬以外の全員が革靴なのだから歩きにくいのも当然だった。篠宮本人は遅れて心配をかけないように声をかけたつもりだったのだが、全員がそこで立ち止まってしまった。山に入ってからすでに1時間近くを歩きつづけてきた。気は急いていても身体には少し休憩が必要だった。自己管理の大切さを知っているメンバーだからこそ、そこで足を止めたのに違いなかった。 近くの木に片手を預けて靴の中身を落としていた篠宮は、何気なく眼を向けた下の道に何かを見つけた気がした。高さ的には1メートルくらいあるだろうか。少々オーバーハング気味だったが、適当な木が何本かあるので上り下りのできないほどではない。しっかりと靴を履きなおした篠宮は、一気にそこの斜面を下った。 「おい、篠宮!」 「ちょっと待ってくれ。このあたりで何か……」 草の生い茂っているあたりを探しはじめた篠宮に、成瀬が降りてきてその「何か」探しに加わった。数箇所ばかり草を掻き分けたところで見つけたそれは、1本のペットボトルだった。それを見た成瀬は篠宮と頷きあうと、上で見守っていたメンバーに声をかけた。 「すみません、森崎さん。これをちょっと見てもらえますか?」 「あ? は、はいっ」 そのことばに、犬を連れた丹羽以外のメンバーも下の道に下りた。森崎を中心にぐるっと取り囲む。緊張気味の森崎に篠宮が烏龍茶と書かれたペットボトルを見せた。 「これは、このあたりではよく売られているものでしょうか」 「いえ? こういうのははじめて見ましたよ?」 全員の口からため息のような音が洩れた。事情のわからない森崎がきょとんとした眼を和希に向けた。 「あの……。どうしたんですか?」 「ああ、すみません。これを捨てたのはおそらく啓太なんです」 「でもこれ、ただのペットボトルでしょう? どうしてそんなのが分るんですか?」 ラベルに青いぬいぐるみのクマの絵がついているからですよ。それでは森崎には通じないと思いつつ、和希はそんな説明をした。 身体が重い……。座ってしまいたい……。でも。座る前に、あと一歩だけ。あと、たった一歩でいいんだ。ほら、啓太。足を出して……。そしたら一歩になる……。 「それにしても驚きやったなあ。啓太の運のええのんは知っとったけど、まさか烏龍茶まで持っとったとは思わんかった」 「この期に及んでも、まだ運からは見放されてないんだねえ」 たとえ500ミリとはいえ、啓太は水分を持っていた。それは確かに焼け石に水かもしれないが、それでもないよりははるかにましだった。啓太の運のよさはいっそ見事と言うほかなかった。 ペットボトルが見つかったことで丹羽も犬を連れて下りてきたが、当のマックスは周囲を嗅ぎまわった挙句にそっぽを向いてしまった。ペットボトルは上から落ちてきたもので、そこに啓太は来ていないということなのだろう。しかたなく一行はしばらく下の道を歩くことになった。もう少し行ったところで、上に上がりやすい場所に出ると言われたからだった。 「わんっ! わんっっ!」 歩きはじめたところでマックスが吼えた。無駄吠えのしないマックスには珍しいことである。丹羽にリードを取られておとなしく歩いているものの、先刻までの道に戻りたいのだろう。向こうにいるはずの啓太に、マックスは呼びかけているのだ。 「啓太ーっ」 「迎えにきたぜーっ! 啓太よおっ!」 マックスに促されたかのように、他のメンバーも大声で啓太を呼んだ。 ―― 啓太! ああ……。中嶋さんの声が聞こえる……。 ―― わん! わわんっっ!! へへへ。幻聴っておもしろいな。マックスの声まで聞こえてるよ……。 突然。マックスが吼えるのをやめ、足を止めた。リードを引いてもついてこないマックスに気づいて、丹羽と中嶋も足を止めた。マックスは全身が緊張しきっていて、必死に何かを聞き取ろうとしているのが分る。 「何か聞こえるんか……?」 「しっ!」 身動きもせずに全員が犬を見つめた。1秒2秒と時が刻まれていく。やがて。足を止めたときと同じく突然、マックスは猛烈な勢いで走りはじめた。不意をつかれた丹羽が思わずリードを離してしまう。自由になったマックスは100メートルほど先の崖の下で激しく吼えた。 「わんっ! わんわんわんっ!!」 あれ? ホントにマックス……? 何で……? え? 中嶋さんも……? ホントに……? なんで……。……どうして。 どんなに丹羽や中嶋の足が速くても犬には負ける。ましてやマックスは全力を出していた。数秒遅れで後を追う彼らの前で、崖の上からぱらぱらと小石が落ちてきた。 「啓太っ!」 見上げると3メートル近くある崖の上で、木にすがりついた啓太が呆然と中嶋たちを見下ろしていた。 「すぐそっちへ行く! そこを動くな!」 聞こえたのか聞こえなかったのか。啓太はよろよろと手をのばしてきた。 「啓太! 動くんじゃないっ!!」 「啓太っ。俺がここに残るから心配しなくていい。中嶋さんが行くまでじっとしてるんだ!」 それでも動こうとする啓太に、中嶋はどうしても動けない。すがりついていた木から手を離し、ふらふらしながら足を踏み出してくる。 「遠藤。僕が行くから」 そう言い置いて成瀬が走った。丹羽もすぐに後を追う。案内してもらわなくても、先刻、森崎の言っていた「上に上がりやすい場所」というのはすぐそこに見えていた。 これ以上声をかけたらかえって啓太を呼び寄せてしまいそうで、制止の声さえかけるのがためらわれた。成瀬や丹羽の姿はまだ見えない。 数秒が数時間にも思える中。啓太は尚もよろよろと足を進め、そして ―― 。 「あぶないっ!」 「啓太っ!」 悲鳴のような声があがるなか、ゆらりと揺れた啓太は、崩れるように落ちてきた。そこにいた全員が思わず手を伸ばす。ストップモーションのように見えて、その実あっという間もなく落ちてきた啓太の肩の端をなんとか中嶋が掴む。力任せに引き寄せ、そのまま啓太をくるみこむように抱いたかと思うと、受身の姿勢をとって衝撃をやり過ごした。ごろごろと数回転がったところでようやく動きが止まった。 「……脅かしてくれる……」 荒い息をつきながらも、中嶋はほっとした息を吐いた。心配そうにマックスが頬をすりつけてくる。腕の中にいる啓太にはかすり傷ひとつつけていなかった。 「…… 中嶋さん ……?」 啓太はまだ呆然とした顔をしていた。何故ここに中嶋がいるのか、まだよく分かっていないようだ。 「あとでゆっくり聞いてやる。まずは水を飲むんだ」 膝をついた中嶋は胸に抱いた啓太を左腕で支えると、滝から受け取ったミネラル・ウォーターのペットボトルを口元にあてた。震える手を添えた啓太は、よほど喉が乾いていたのだろう。一気にあおり、そして派手にむせた。 「げふっ。ごほっ、ごほ……」 「慌てるんじゃない! 馬鹿か、おまえは」 口ではきついことを言いながらも、苦しそうに咳き込む啓太の背中を叩いてやっていた中嶋は、落ち着いた頃を見計らって、今度は口移しで水を飲ませた。少しずつ、何度も何度も根気よく、啓太が自分で飲めるようになるまでそれはつづけられた。 2リットルのほとんど全部を飲み干してようやく一息つけたのか、啓太はペットボトルを口から離すと大きく息をついた。 「まだあるぞ。もっと飲むか?」 「…… あとで 」 「そうか? なら、飲みたくなったらいつでも言え」 「 うん ……」 啓太が落ち着いたのを見た和希が歩み寄ってきた。啓太の無事を確認した和希は各方面への報告に追われていて、まだ啓太に声さえかけられずにいたのだった。 「啓太。良かった。ご両親には連絡したからな。よろこんでおられたよ」 「…… 和希、も、来てくれてた ……?」 「ん? ああ。みんなで探してたんだぜ。ホント、見つかって良かったよ」 遠藤和希の顔で、わざと軽く笑いかける和希に、だが啓太は驚いたように目を見開いた。 「 みんな ……?」 できる範囲で啓太があたりを見回すと、そこには思ったよりたくさんの人がいて、丹羽や滝、成瀬に篠宮といった親しい顔がいくつも見受けられた。助けに来てくれたのは、ここにいる中嶋や和希だけではなかったのだ。突然の中嶋たちの出現にまだ頭がちゃんとついていかないが、こんなにもたくさんの人たちが自分のために動いてくれていたのだということは、おぼろげながら啓太にも理解できた。 「…… 和希 …………」 「何?」 「みんなに ……、 有難う 、って 」 「了解」 そう言って啓太の頭を軽く撫でた和希は、またこの吉報を伝えるべく、携帯電話を取り出した。 なんとか無事に保護はしたものの、啓太の顔も腕も、汗と血と脂と土埃などで真っ黒になっていた。埃で真っ白になった頭にも葉や枝などがからまってしまっている。少しでもなんとかしてやりたくて、中嶋は篠宮に声をかけた。 「篠宮。悪いが顔に水をかけてやってくれないか」 「わかった」 細く流れ落ちるように調節しながらかけられる水を追って、中嶋の指が啓太の顔をそっと拭っていく。少しずつ汚れが落ちていくたびに、啓太が気持ちのよさそうな声をもらした。当然のことながら中嶋の服もびしょぬれになってしまったが、本人も含めて気にした者は誰もいなかった。 「濡れたついでだ。どうせなら服も脱がして水をかけたらどうだ?」 「ああ。そうだな」 中嶋の右手がポロシャツのボタンをはずし、啓太の頭から抜くのと同時に、スニーカーを脱がせた篠宮がベルトをはずして下着ごとズボンを脱がせる。と、腹の部分に挟んででもいたのか、本が1冊落ちてきた。 「なんやこれ。ペーパーバックやないか」 ひろいあげた滝が不思議そうに言った。 「何でこないなモン、大事そうに持っとってんやろ」 それは中嶋が啓太に貸したペーパーバックだった。宿題は置いていっても中嶋に借りた本は手放さなかったようだ。滝のことばに満足そうな笑みをもらした中嶋だったが、だがそのたった1冊の本が、どれほど啓太の心の支えになったのかまでは知る由もなかったろう。訳もわからないまま置き去りにされた山の中で、啓太はただひとりきりで夜を過ごさなければならなかったのだ。それに頬を載せて寝られただけで、どれほど心強かったか。それは啓太本人にしか分からないことだった。 啓太の服の下はかなりひどい状態になっていた。腹部やふくらはぎといった柔らかい場所を中心に真っ赤に腫れ上がり、かなりの範囲で化膿していた。何度かそれがつぶれたのか、服や身体のあちこちに血の混じった膿がこびりついている。抱いている啓太の身体がいつもより熱く感じられたのは、この炎症と無関係ではないのだろう。痛みに弱い啓太が、これだけの傷を抱えながらよくもここまで歩いて来れたものだと、それを見た誰もが思った。 「これは……。虫に刺されたな」 啓太の身体に、顔のときより以上に気をつけながら水をかけていた篠宮が小声で言った。中嶋は頷きながらも、余計な心配をさせないよう、啓太に向けた表情を変えることはなかった。それはまるで情事のあとの戯れのような微笑を含んでいて、その眼に会うたび、啓太の身体から不安と恐怖が取り除かれていき、代わりに温かい安心感が満ちてくるのだった。 中嶋と啓太との間には、もう何も入ることができなかった。丹羽も篠宮も、そして和希さえもがただの背景になってしまっていた。その姿を見ていれば、何も知らない本条や森崎までもが彼らの関係に気づいたに違いない。だが中嶋も啓太もあまりにも自然で、そしてあふれるほどの信頼と愛情が感じられ、誰もがあたりまえのようにその姿を受け入れていた。 「お仕置きだな」 啓太が痛がらないよう、洗い終わった身体にそっとタオルを当てながら中嶋が囁いた。 「…… 中嶋さん ……?」 「おまえは俺のものだと言っただろう。勝手にこんな傷をつけてくるなんて許さん」 「…… うん 」 啓太の顔にほっとしたような笑みが浮かんだ。 「なんだ。お仕置きが好きなのか? やっぱり淫乱だな」 「…… ホントに中嶋さんなんだ、って ……」 口には出さなかったが、啓太はこの時はじめて、そこにいるのが中嶋だと実感できたのだった。自分を抱いてくれているこの腕が中嶋のものだと、ようやく分かったのだ。 「……だが、おまえにしてはよくがんばったな。だからお仕置きは家に帰るまで待ってやろう」 「…… うん 」 服を着せるのはやめ、ガーゼを当てて毛布でくるんだ啓太の身体を、中嶋がそっと抱き上げた。彼らを護るつもりなのか、マックスがぴたりと寄り添ってくる。 ようやくその腕に取り戻した啓太を、中嶋はもう病院に着くまで離そうとはしなかった。 そして望みつづけた中嶋の腕の中に戻れた啓太は、毛布の合わせ目からそっと伸ばした手で中嶋のジャケットの端を掴むと、安心したように眠りの中に落ちていったのだった。 |
いずみんから一言。 いやー。参った参った。データが2度も文字化けしてしまって。 伊住は文字はキィボードでしか書けないのに、手入れをするのは紙でないと できないのです。 最初の文字化けはラスト20行。 初稿打出しをしようとしていたところだったので、何を書いたか思い出せず、 何日間かボーゼンとしていました。 なんとかラストをうめて打出し、手入れして再入力の終了。 やれやれこれでUPできる。 そうしたらまたしても文字化けしていました。 今度のは数行単位で文字化けし、化けてない部分はこれまた数行単位で シャッフルされているといった念の入りよう。 打出して手入れしてたものが手元に残ってたから、最初のときよりは うんと楽だったけど。それ以外に手を加えたところだってあったわけで。 そんな苦労(涙)も思いながら読んで頂けるとうれしいです。 ……でも、何が悪くて化けるんだろう??? ともあれ。あと2回で終了です。11月まで今しばらくお付き合い下さい。 |